
Column
現代社会とストレスマネジメント

記事作成日
2021年1月20日
【現代社会とストレス】
首都圏で電車やバスに乗れば、パーソナルスペースもないほどに、疲れ切った表情の人々がひしめき合っています。通勤通学の途中も、スマートフォンを片手に目と神経を酷使する生活が日常化しています。生活必需品が十分に満たされた今の社会では、「いかに便利なものか」がさらに追求され、心身に負担をかける場面が増えているのではないでしょうか。
現代では「うつ」や「ストレス」という言葉が日常的に使われるようになり、テレビや雑誌で取り上げられたダイエット商品は飛ぶように売れています。「歳を重ねるほど健康の大切さを実感する」とよく言われますが、最近では若年層でも心身の不調が目立つようになりました。
調布市が中高生を対象に行った調査(*1)では、「いつもストレスを感じる」と答えた生徒が12.6%、「時々ストレスを感じる」と答えた生徒が50.2%に上り、合計62.8%の生徒が日常的にストレスを感じていることが明らかになっています。もはや年齢に関係なく、社会の変化が速い現代では、心身の健康管理が重要となっています。
「受験勉強」「就職活動」「満員電車」「残業」など、大人になるにつれてストレスを連想させるイベントや状況が次々と増えていきます。体の休息や心の安らぎを求める人が増えるのも当然のことではないでしょうか。
(*1) 調布市民の健康づくりに関する意識調査報告書「調布市民健康づくりプラン編」(2012年)より

【働くこととメンタルヘルスケア 〜その重要性について〜】
この記事をお読みの多くの方は、現在働いている、または働いた経験があるのではないでしょうか。あなたがこれまで経験してきた職場環境はいかがでしたか?
厚生労働省の「労働安全衛生調査」(2015年)によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は59.7%に達しています。これは2010年の43.6%と比較して16.1ポイントの大幅な増加であり、さらに2007年の33.6%からも大きく伸びています。特に従業員数が100人を超える事業所においては、90%以上がメンタルヘルス対策を導入しており、もはや「対策が実施されているのが当然」という状況になりつつあります。
このようなメンタルヘルスケアへの意識の高まりの背景には、過去にメンタルヘルス不調が原因で連続1ヶ月以上の休業または退職者が発生した事業所が多かったことがあります。2011年の調査では、こうした事業所は9.0%でしたが、2015年には0.6%にまで低下しています。
(下図:メンタルヘルス対策に取り組む事業所割合の推移|出典:厚生労働省「労働安全衛生調査」2015年)

『メンタルヘルス経営学』(金子書房)の著者である山崎氏と日向寺氏は、人が組織の中で十分なパフォーマンスを発揮するためには、大きく3つの資質的条件が必要であると述べています。
・SYMPATHY=企業理念や意志への共感性と理解
・SKILLS=技術、技能、知識、対人関係などの社会的能力
・HEALTH=心身と生活の健全性
両氏によると、企業人が組織内で最も注目される「仕事の遂行に直接関わる能力(技術・技能、知識、コミュニケーション能力、対人関係スキルなど)」を十分に発揮するためには、まず「心身と生活の健全性」が基盤として必要とされています。つまり、一人ひとりが心身の健全性を高めることができれば、それは個人の能力を最大限に発揮することにつながり、結果として組織全体や企業のパフォーマンス向上にも直結するのです。
しかし現在、多くの企業が注目しているのはメンタルヘルスケアであり、身体的な健康管理(フィジカルヘルスケア)まで十分に意識されているとは言えません。皆さんもご自身の経験からお分かりの通り、心の健康を維持するためには、身体のケアも欠かせません。心のケアに偏ることなく、身体のケアも同じくらい重要だと認識する必要があります。「心身と生活の健全性」を高めるためには、心と身体、両方のケアが不可欠です。
そこで私は、「制感法(諸感覚のコントロール)」や「瞑想法(心のコントロール)」だけでなく、「快適な座り方(ヨガのポーズ)」や「呼吸法」を含むヨーガを、心と身体の二側面を同時にケアできる技法として推奨したいと思っています。
【参考】
1. 調布市 (2012), 調布市民の健康づくりに関する意識調査報告書「調布市民健康づくりプラン編」PDF,調布市HP(http://www.city.chofu.tokyo.jp), 2016年12月22日
2. 厚生労働省, 労働者健康状況調査(2007)PDF, 労働災害防止対策等重点調査(2011)PDF, 労働安全衛生調査(2015)PDF, 厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/), 2016年12月22日
3. 山崎友丈・日向寺治彦 (2012), メンタルヘルス経営学, 金子書房
