
Column
世界で行われるヨガの研究、ダイエットの可能性

記事作成日
2021年1月20日
【そもそもヨガってなに?】
日本では年々ヨガを行う人が増え、それに伴ってヨガ教室やスタジオの宣伝を目にする機会も多くなりました。また、周りにヨガを始めたという知人も増えてきたのではないでしょうか。もしこの状況を古代のヨーガ行者たちが知ったら、驚くかもしれません。なぜなら、本来ヨガはヒマラヤ山中で行者がひとり静かに修行するものであり、その姿を他人に見せることはありませんでした。行者たちは日が昇る頃には朝の修行を終え、日が沈む頃に再び夕方の修行を行い、すべては深い瞑想(三昧)に入るためでした。かつては行者たちが自身のためだけに行っていた修行法が、今では世界中の多くの人々に実践されるようになったのです。
最近では「ホットヨガ」などが人気で、「ヨガ=ダイエット、汗をかいて体を動かすもの」というイメージを持つ方も多いでしょう。もちろん、それも間違いではありませんが、「では、ヨガと一般的なエクササイズの違いは何か?」という疑問も出てくるかもしれません。
ヨガ(Yoga)という言葉の語源は、サンスクリット語の「Yuj(ユッジュ)=結びつける」という意味です。伝統的なヨガとは、人間の意識と神(宇宙的な意識)を統合させることを目的とした古来からの技法なのです。つまり、本来のヨガが焦点を当てているのは身体ではなく、「意識」や「心」なのです。ヨガとは、実は心の科学でもあるのです。

【ダイエットとヨガの関係性】
イライラしている時に暴飲暴食してしまったり、嫌なことがあった日にお酒に頼ったりした経験はありませんか?ヨガは、このような気持ちをうまくコントロールするための技法を学べる方法です。
ヨガでは、人間の感覚器官を10頭の馬に例えてきました(*1)。これらの感覚器官の働きをしっかり制御することが、ヨガの重要な目的です。想像してみてください。あなたの前には「食欲」という名の馬がいます。あなたはその手綱を握っています。馬をうまく制御するには、手綱が丈夫でなければならず、その使い方をよく理解していなければなりません。つらいエクササイズを続けて体重を落としても、その後に食欲をコントロールできず、リバウンドを繰り返してしまった経験はありませんか?単に運動を追加するだけではなく、「生活習慣そのものを変える」ことができれば、一度落としたお腹の脂肪と再び対面することはなくなるでしょう。
ヨガを正しく実践すると、自然と生活や考え方が変わり、身体も内面から健康的で美しく変化していきます。私がヨガをダイエットにおすすめする理由は、ヨガの実習がもたらす効果が「健康」だけにとどまらず、「仕事」や「恋愛」など人生のあらゆる面に良い影響を及ぼすからです。
*1【5運動器官】「手」「足」「口」「生殖器」「肛門」【5感覚器官】「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」(カタ・ウパニシャッド - BC2000頃)

【世界で行われるヨガの研究】
「ヨガは体に良い」とよく言われますが、具体的にどのように良いのか、疑問を持つ方も多いでしょう。
約50年前からインドのヨガ研究機関を中心に研究が始まり、現在では欧米諸国でもさまざまな研究が行われています。ヒマラヤ山中の過酷な環境下で薄着のヨガ行者が健康的で、一日に何キロも移動できることに研究者が注目し、「ヨガの技法に健康の秘密があるのではないか?」という疑問から本格的な研究が始まりました。
以下では、ヨガの健康効果について、過去に発表された主な研究論文をいくつかご紹介します。
【気管支喘息】
M.V. Bhole、N.S. Vahia、K.N. Udupa、R. Nagarathna、H.R. Nagendraらの研究によると、喘息患者がヨガ実践により大幅に改善し、多くが薬を減らすか中止できたと報告されています。特にR. Nagarathna博士とH.R. Nagendra博士の研究では、179名中152名の症状が改善しました。
方法:クリヤー、アーサナ、プラーナーヤーマ、瞑想
【高血圧】
Patel C.H.はシャヴァ・アーサナ(屍のポーズ)とバイオフィードバックにより収縮期血圧が大幅に下がったことを発表しています。また、Stone R.A.とDe Leoの研究では、自然呼吸を意識的に数える訓練で高血圧患者の血圧が大きく低下し、交感神経の活動が穏やかになったことが示されました。他にもDatey K.K.、R. Nagarathna、H.R. Nagendraらが同様の研究を報告しています。
方法:呼吸法、アーサナ、プラーナーヤーマ、瞑想、ヨーガ・ニドラー
【糖尿病】
Varandani N.の研究によると、286名の糖尿病患者のうち25%が正常な血糖値を回復し、27%が血液および尿の検査結果に改善が見られました(改善しなかった患者の多くは子供の頃からの糖尿病患者)。他にもK.N.Udupa、R. Nagarathna、H.R. Nagendraらが糖尿病とヨガの関連性を発表しています。
方法:ハタ・ヨーガのクリヤー、アーサナ
【不眠症】
Miskiman D.E.、Woolfolk R.L.らは、瞑想が不眠症の改善に効果的であり、入眠までの時間が短縮されたことを発表しました。
方法:超越瞑想(TM)、一般的な瞑想
これらの研究は既に50年ほど前から発表されているものであり、ヨガが注目される背景には、現代がストレス社会で心身の不調を抱える人が増えていることも影響しています。心臓疾患、アレルギー性鼻炎、慢性肺疾患、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、胃酸過多、月経異常、男性生殖器障害など、多様な疾患に対するヨガの効果が現在も研究されています。
「ダイエットを始めたい」と考える理由はさまざまですが、体重を減らすことに加えて病気になるリスクも同時に減らすことができたら理想的だと思いませんか?

【今から始められるヨガ~お腹を使って呼吸する~】
皆さんは日常で自分の呼吸を意識したことがありますか?鼻が詰まった時に初めて「普通の呼吸はどんなだったかな…」と気づく方も多いかもしれません。呼吸は生命を支えるだけでなく、心を落ち着かせ、感情を静め、身体の内側にあるエネルギーを活性化させる力も持っています。
運動後に胸や肩でハァハァと息をした経験はありませんか?疲労が強まるにつれて、呼吸で動く体の部位が胸や肩など上部へと移動します。長時間座っていると背中が丸まり、腹式呼吸が難しくなり、結果として疲れやすくなります。
腹式呼吸にはさまざまなメリットがあります。普段から腹筋を鍛える効果があり、酸素をたっぷり取り込み、体内の不要な空気をしっかり排出できます。また、「一呼吸おく」余裕が生まれ、感情を落ち着かせることが可能になります。すぐに怒りを感じてしまうことや、その後の後悔を減らす助けになるでしょう。
現代は自動的に呼吸できるからといって無意識に任せきりではいけません。飛行機が自動操縦でも、パイロットが異常を察知して手動に切り替えるように、私たちも意識的に呼吸をコントロールすることが大切です。呼吸を深く行うことで、消化吸収、脂肪燃焼、免疫向上にも良い影響を与えます。
腹式呼吸を意識するだけで、立派なヨガの実践となります。
【腹式呼吸のメリット】
・お腹周りの引き締めと姿勢改善
・感情のコントロール向上
・内臓機能の活性化
【簡単に始められる腹式呼吸の方法】
朝目覚めた時や夜寝る前に行うのがおすすめです。床の上にラグやタオルを敷いて行うのがベストです。
① 仰向けで横になります。脚は1m程度広げてリラックスさせ、足先を外向きにします。腕は体から少し離し、手の平は天井に向けて力を抜きます。目を静かに閉じましょう(シャヴァーサナ)。
② 身体が床(またはベッド)に沈んでいく感覚を感じ、自分のお腹が呼吸とともに上下するのを観察します。呼吸が規則正しく、ゆったりと落ち着いてくるのを感じます(約5分間)。
③ 鼻から息を吸う時にお腹が膨らみ、鼻から吐く時にお腹がしぼんでいくのを感じましょう。自然な呼吸のリズムを意識します(約5分間)。
④ 息を吸うたびに身体全体に新鮮なエネルギー(酸素)が満ち、吐くたびに疲れやイライラが外に出て、身体が軽くなっていく感覚を感じます(約5分間)。
朝行うと一日のスタートが快適になり、夜に行えば一日の疲れが癒されぐっすり眠れるでしょう。「自分の呼吸に意識を向ける」ことで、日常生活がより豊かになります。忙しい方こそ、ぜひ取り入れてみてください。
【ヨガが気になってきたあなたへ】
この記事を読んで、皆さんのヨガに対する印象は少し変わったでしょうか?ヨガについては、もっと詳しくお伝えしたいことやご紹介したいことがまだまだたくさんあります。また現在はヨガ関連の書籍も多数出版されており、多くの方がブログなどでもヨガに関する情報を発信されています。
ヨガには絶対的な正解や不正解はありません。大切なのは、皆さんが「これいいな」と感じたヨガの技法や知識を実際に試してみること。そして、自分自身で「これは良いな」と実感したものを続けていくことです。ぜひ、ご自身の感覚を大切にして、心地よいヨガの時間を楽しんでいただければと思います。