
Study
ヨガニドラは慢性不眠の「深い睡眠」と寝つきを底上げする

記事作成日
2026年2月26日
不眠って、本人の努力不足とか気合いの問題ではないんですよね。眠ろうとするほど冴えてしまう、寝床に入った瞬間に「今日の反省」と「明日の予習」が始まってしまう。そういう“脳の立ち上がり癖”が、毎晩くり返されてしまう状態です。
この論文が面白いのは、その慢性不眠に対して、王道のCBTIと、ヨガニドラというかなり静かな実践を、同じ土俵で比べているところです。
結果としては、どちらも睡眠時間や睡眠効率、夜中の覚醒などが改善していきます。つまり「薬を増やさずに睡眠が良くなる道」は、複数あるんですね。ただ、ヨガニドラの方が示唆的なのは、“深い睡眠(N3/徐波睡眠)”が増える方向が見えた点です。
ここは、感覚的にも分かりやすくて、睡眠の「長さ」だけではなく「中身」が変わると、朝の回復感が違ってきます。寝たのに疲れが取れない人は、ここがズレていることが多いです。
さらに、ヨガニドラ群では唾液コルチゾール(ストレス系の指標)が有意に下がっています。
もちろんコルチゾールは単純な善悪で語れないのですが、それでも「交感神経が抜けにくい夜」に対して、身体側からブレーキをかける方向に働いた可能性は、かなり納得感があります。論文中でも副交感神経優位や迷走神経活動との関連が議論されています。
ヨガニドラの良さは、難しいポーズがいらず、仰向けでできることなんです。 「運動しなきゃ眠れない」ではなく、「まず神経の音量を下げる」という入口を、誰でも取りやすい形で用意できます。しかも初週に数回だけ監督下で練習し、その後は自宅で続けられる設計なので、現場実装にも向いています。
一方で、この論文は“丁寧”でもあります。不眠の方は不安や身体愁訴が強く出ることもあるので、監督やモニタリングの重要性が繰り返し述べられています。 つまり「YouTubeで流して終わり」ではなく、最初は専門家の目が入る方が安全で、結果も出やすい、ということですね。
下記、研究の要約まとめです。
Yoga nidra practice shows improvement in sleep in patients with chronic insomnia: A randomized controlled trial
DATTA K, TRIPATHI M, VERMA M, MASIWAL D, MALLICK HN. Yoga nidra practice shows improvement in sleep in patients with chronic insomnia: A randomized controlled trial. Natl Med J India 34:2021;143-50.
【タイトル】
慢性不眠症患者においてヨガニドラ実践は睡眠の改善を示す:無作為化比較試験
【背景】
慢性不眠に対する標準的な非薬物療法としてCBTI(不眠に対する認知行動療法)は有効ですが、費用や治療に要する時間、提供できる訓練者の不足などから十分に普及していない、という問題意識が提示されています。
そこで、比較的シンプルに実施できる可能性のあるヨガニドラを、慢性不眠の治療オプションとして検証する目的で本研究が設計されています。
【ヨガニドラについて】
本論文でのヨガニドラは、外界から注意を引き戻しつつ「身体・精神・情動の完全な弛緩を系統的に誘導する方法」として説明されています。
また、瞑想と異なり「気づきが保たれた状態」で、仰臥位(仰向け)で行い、難しい姿勢や運動を必要としないため、身体的制約がある人にも受け入れられやすい、という位置づけです。
【N3睡眠/徐波睡眠SWSについて】
N3睡眠は一般に「深いノンレム睡眠(徐波睡眠)」に相当し、回復感や睡眠の質の主観評価と関連が深いステージとして扱われます。本研究では、ヨガニドラ群でN3(およびN2)の割合が増える方向の変化が観察され、単に“睡眠時間が増えた”だけでなく、“睡眠の中身(構造)”にも変化が出た可能性が示唆されています。
【ヨガニドラとN3睡眠/徐波睡眠SWS、ヨガの関係について】
本研究の中心キーワードを整理すると、慢性不眠、CBTI、ヨガニドラ、主観指標(睡眠日誌:TST/SE/SOL/WASOなど)、客観指標(PSG:睡眠段階N1/N2/N3やREM潜時など)、そしてストレス生理指標としての唾液コルチゾールです。
ヨガとの関係で重要なのは、ヨガニドラが「動かない・難しい姿勢を取らない」形で実施できる点と、睡眠医療の枠組み(PSGや不眠重症度尺度)で効果検証されている点です。 さらに論文中では、ヨガニドラが副交感神経優位へのシフトと関連する可能性、迷走神経活動(心臓迷走神経制御)が睡眠の主観・客観的質と関係する可能性など、神経生理学的な“つながり方”が議論されています。
【方法】
2012〜2016年にインドの三次医療機関で実施された、並行群の無作為化比較試験です。慢性不眠の患者41名を、CBTI(20名)またはヨガニドラ(21名)に割り付けています。 対象は25〜60歳で、通常の睡眠覚醒リズムを保てる人が含まれ、朝型傾向の人のみをスクリーニングで採用しています。
評価は、睡眠日誌(TIB/TST/SOL/WASO/SE/TWD)と質問紙(PSQI、ISI、PSAS、DASS、ESSなど)に加え、PSGで客観評価を行い、唾液コルチゾールも測定しています。 PSGは全員で介入前に実施し、介入後は希望者のみ再検査となっています。
介入内容は、CBTIが45〜60分×計6セッションの多要素CBTIで、ヨガニドラは初週に5回の監督下セッションを行い、その後は自宅実践へ移行する設計です。 無作為化は乱数表+不透明封筒で、評価者やデータ入力、検査技師などは介入内容に盲検化されています。
統計はCohen’s dの効果量と、ANOVAやt検定でp<0.05を有意としています。
【結果】
主観評価(睡眠日誌)では、両群ともTSTや睡眠効率、WASO、総覚醒時間の改善、睡眠の主観的質の向上がみられ、ヨガニドラ群ではSOL(寝つき)も改善方向が示されています。
客観評価(PSG)でも両群でTSTと総覚醒時間が改善し、N1%が増加し、ヨガニドラ群ではN2%とN3%の改善が目立つと要約されています。
生理指標では、ヨガニドラ群の唾液コルチゾールが介入後に有意に低下(平均3.63→2.16 ng/ml)し、CBTI群では有意な変化がありませんでした。
補足として、睡眠日誌の解析対象はヨガニドラ群17名、CBTI群13名に限られ、PSG再検査も希望者(CBTI 11名、ヨガニドラ15名)である点は結果解釈上の前提になります。
【考察】
著者らは、ヨガニドラ群でのSWS(徐波睡眠)の増加が主観的睡眠の質の改善を説明し得る、という筋道を提示しています。
その背景として、ヨガニドラが副交感神経優位へのシフトと関連する可能性、迷走神経活動が睡眠の主観・客観的質と関連する可能性などが引用され、睡眠の“回復性”に寄与する仮説が述べられています。
一方で、介入の実装面としては、睡眠日誌中心のモニタリングに加えて本来はアクチグラフィも使えたはず、という限界にも触れています。
また、心身介入では不安や身体愁訴が出やすい患者もいるため、睡眠医の監督下での標準化とモニタリングが重要だと強調しています。
私見を添えるなら、CBTIが「学習と行動変容を積み上げる治療」だとすると、ヨガニドラは「神経系のトーンを下げる入口を、手続きとして提供する介入」に近く、入り口の違いがSOLやSWSの差として現れた可能性は直感的にも理解しやすいです。ただしPSG再検査が希望者のみである点などから、一般化は慎重に扱うのが安全です。
【結論】
結論として、ヨガニドラとCBTIはいずれもTSTと総覚醒時間を主観・客観の両面で改善し、ヨガニドラではSWSとSOLの改善も示されたため、監督下のセッションを経たうえで慢性不眠の補助療法として活用できる、とまとめられています。
引用文献は下記よりご覧下さい.
もし、掲載内容と論文に誤りがございましたらご連絡いただけると幸いです。

