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ヨガは関節リウマチの身体機能と疾患活動性を改善するのか

記事作成日
2022年1月14日
関節リウマチという病気は、関節が炎症で腫れ、動かすたびに痛みが走り、日常の動作さえつらくなるものです。薬で炎症を抑えることが一般的ですが、長く使えば使うほど副作用のリスクも高まり、「もっと自然で安全な方法はないのか…」と探し始める方も少なくありません。
そんな中、古代インドから伝わるヨガが注目されています。ヨガといっても、激しい運動ではなく、呼吸に合わせてゆったりと身体を動かし、内面を静めていくものです。今回の研究は、そのヨガが関節リウマチにどれほど役立つのかを、過去の臨床試験をまとめて調べたもの。10件のランダム化比較試験、計840名の患者さんのデータを分析しています。
結果としては、まず身体機能が向上しました。関節リウマチでは、ボタンを留める、ドアを開ける、歩くといった日常動作が難しくなることがありますが、その「できる範囲」が広がったのです。さらに、疾患活動性のスコアも改善。これは炎症の度合いや関節の状態を総合的に評価する指標で、数値が下がるほど病状が落ち着いていることを示します。加えて、握力の向上も見られました。握力は手先だけでなく、全身の筋力や生活動作に直結するため、患者さんにとって大きな意味があります。
一方で、痛みの軽減や炎症マーカー(CRPやESRなど)の改善は統計的に有意ではありませんでした。つまり、炎症そのものを数値で抑える効果ははっきりしませんが、身体の使いやすさや動きやすさは確かに良くなる、という結果です。
興味深いのは、ヨガによる効果は症状が長期化している人ほど大きい可能性があること。長くRAと付き合ってきた身体に、ヨガのゆっくりとした動きや呼吸が、筋肉や関節の可動性を少しずつ取り戻すきっかけを与えているのかもしれません。
安全面でも心配はほとんどなく、有害事象の報告はゼロでした。もちろん、この結果は小規模で質のばらつきがある試験の集まりなので、過信は禁物です。しかし、低リスクで、自分のペースで続けられる方法として、日々の生活に取り入れる価値は高いでしょう。
この研究をおすすめする理由は、「今の薬をやめる代わり」ではなく、「薬と並行して、自分の身体を整えるための武器」を手に入れられるからです。呼吸と動きがつながり、少しずつ身体が軽くなっていく。その積み重ねが、関節の痛みや不自由さと付き合う毎日に、確かな変化をもたらしてくれます。
下記、研究の要約まとめです。
Yoga for Treating Rheumatoid Arthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis
AUTHOR=Ye Xiangling , Chen Zehua , Shen Zhen , Chen Guocai , Xu Xuemeng
TITLE=Yoga for Treating Rheumatoid Arthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis
JOURNAL=Frontiers in Medicine
VOLUME=Volume 7 - 2020
YEAR=2020
URL=https://www.frontiersin.org/journals/medicine/articles/10.3389/fmed.2020.586665
DOI=10.3389/fmed.2020.586665
ISSN=2296-858X
【タイトル】
関節リウマチ治療におけるヨガ:系統的レビューとメタ分析
【背景】
関節リウマチ(RA)は慢性的な炎症性自己免疫疾患で、痛みやこわばり、腫れ、関節機能の低下を引き起こし、生活の質を著しく損ないます。薬物療法が一般的ですが、長期使用による副作用や合併症が問題となり、補完療法や非薬物療法への関心が高まっています。その中で、身体・呼吸・瞑想を組み合わせたヨガは、症状緩和や生活の質向上に有効ではないかと注目されています。
【関節リウマチについて】
RAは世界人口の約1%が罹患し、特に女性に多く発症します。関節の炎症が持続すると変形や機能障害に至り、場合によっては障害の原因にもなります。治療目標は炎症コントロール、関節破壊防止、機能維持です。
【ヨガについて】
ヨガは約5000年前にインドで生まれ、身体のポーズ(アーサナ)、呼吸法(プラーナーヤーマ)、瞑想(ディヤーナ)などから構成されます。近年では慢性疼痛や炎症、ストレス反応の緩和にも効果があるとされ、RA患者の身体機能やメンタル面の改善にも応用が試みられています。
【ヨガと関節リウマチとの関係性とは?】
ヨガは筋力や柔軟性の向上だけでなく、自律神経系の調整や炎症反応の軽減にも関与すると考えられます。RA患者においては、身体機能や握力、疾患活動性の改善が期待されていますが、痛みや炎症マーカーへの効果はまだ明確ではありません。
【方法】
2020年7月20日までに発表されたランダム化比較試験(RCT)を、PubMed、Cochrane、EMBASE、Web of Scienceから検索。RA患者を対象にヨガと非ヨガ介入を比較した研究を抽出。主要評価項目は痛み、身体機能(HAQ-DI)、疾患活動性(DAS-28)、炎症性サイトカイン(CRP, ESR, IL-6, TNF-α)、副次項目は握力。最終的に10件のRCT(計840名、86%女性)が解析対象となりました。
【メタ分析とは】
メタ分析とは、複数の研究結果を統合し、全体としての傾向や効果を統計的に評価する方法です。個々の研究だけでは見えにくい小さな効果や、結果のばらつきを整理できるのが特徴です。質や条件が異なる研究をまとめることで、より信頼性の高い結論を導きやすくなりますが、元の研究の質や規模によって結果の信頼度も左右されます。
【結果】
・身体機能(HAQ-DI):ヨガ群で有意に改善(SMD = -0.32, p = 0.02)
・疾患活動性(DAS-28):有意な改善(SMD = -0.39, p = 0.009)
・握力:有意に向上(SMD = 1.30, p = 0.002)
・痛み・炎症マーカー(CRP, ESR, IL-6, TNF-α)や腫脹・圧痛関節数:有意差なし
・有害事象の報告はなし
【考察】
ヨガはRA患者の身体機能、疾患活動性、握力を改善する可能性がありますが、痛みや炎症マーカーへの効果は確認できませんでした。対象研究は小規模で質のばらつきがあり、結果の信頼性は限定的です。特に症状が長期化している患者ほど、身体機能改善の恩恵が大きい可能性があります。
【結論】
ヨガは安全性が高く、RA患者の補助療法として身体機能や疾患活動性の改善に役立つ可能性があります。ただし、より大規模かつ高品質なRCTによる検証が必要です。現時点では「弱い推奨」として位置付けられます。
引用文献は下記よりご覧下さい.
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