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心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するヨガの効果 ― 系統的レビューとメタ分析

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するヨガの効果 ― 系統的レビューとメタ分析
記事作成日
2021年1月21日

PTSDというのは、一度経験した大きな衝撃や危機が、ずっと心と身体に影響を残してしまう状態です。頭では「もう終わった」とわかっていても、身体はその出来事を今も生きているかのように反応し続けます。眠れない、心臓が急に早く打つ、ささいな音に驚いてしまう…。そんな日常はとても消耗しますよね。

これまでPTSDの治療には薬や心理療法が使われてきましたが、薬は効き方に個人差があり、心理療法も人によっては続けるのが難しいことがあります。そこで近年注目されているのが、心と身体の両方に働きかける「ヨガ」です。

この論文は、ヨガがPTSDの症状を和らげるかどうかを調べた研究をまとめたものです。世界各地(主に北米)で行われた7つの無作為化比較試験のデータを分析した結果、ヨガは「何もしない場合」と比べて、はっきりと症状を軽くする効果がありました。特に、ポーズ(身体姿勢)を含むヨガが効果的で、呼吸法だけのヨガでは効果が確認されませんでした。

ヨガの効果は、単なるストレッチや筋トレとは少し違います。呼吸と動作を合わせることで副交感神経が働きやすくなり、脳の「警報装置」であるアミグダラが落ち着きます。また、ヨガにはマインドフルネスの要素があり、嫌な記憶や感情に対して「評価せずに観る」練習が自然と身につきます。これによって、過去の出来事が引き起こす感情の波に、少しずつ呑み込まれなくなるのです。

もちろん、ヨガだけでPTSDが完全に治るわけではありません。この論文でも、ヨガは既存の治療(心理療法や薬物療法)を補う「補助療法」としての利用が望ましいとしています。しかし、薬が合わなかった人、カウンセリングに抵抗がある人、言葉ではうまく表現できない人にとっては、身体を通して回復の道を見つけられる大きな助けになるでしょう。

PTSDの症状に悩んでいる方や、そのサポートをしている方に、この論文は「ヨガが選択肢のひとつになり得る」という希望を与えてくれます。もし心が緊張で張り詰めているなら、一度ヨガマットの上で、静かに呼吸してみる。そこから新しい回復のきっかけが生まれるかもしれません。

 下記、研究の要約まとめです。

Yoga for posttraumatic stress disorder - a systematic review and meta-analysis.

Cramer, H., Anheyer, D., Saha, F.J. et al. Yoga for posttraumatic stress disorder – a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry 18, 72 (2018). https://doi.org/10.1186/s12888-018-1650-x

【タイトル(日本語の直訳)】
心的外傷後ストレス障害のためのヨガ ― 系統的レビューとメタ分析


【背景】
PTSDは世界人口の最大6.1%が生涯で経験するとされる深刻な公衆衛生上の課題です。戦争や自然災害の生存者、暴力被害者などに多く見られ、再体験・回避・覚醒・認知や気分の変化など多様な症状を伴います。薬物療法や心理療法が一般的に用いられますが、薬物の効果は限定的で、心理療法もエビデンスの質が低く、治療継続が困難な場合があります。そのため、近年では心身相関アプローチであるヨガなどの補完療法が注目されています。


【心的外傷後ストレス障害とは?】
PTSDは過去の強い外傷体験により引き起こされる精神的疾患です。症状は、トラウマの再体験、関連状況の回避、過覚醒、否定的な思考・感情の持続などがあり、日常生活に大きな支障をきたします。発症の背景には、出来事そのものだけでなく、その出来事に対する認知的評価(否定的解釈や自己非難など)が影響します。


【ヨガと瞑想について】
ヨガは3000年以上前にインドで生まれ、身体運動・呼吸法・瞑想・リラクゼーションを統合した総合的アプローチです。現代では身体姿勢と呼吸、瞑想を組み合わせ、心身の統合を目指します。PTSDにおいては、交感神経の過剰な活性化やアミグダラの過活動を抑える可能性があり、またマインドフルネスの側面により、否定的感情や記憶を評価せず受け入れる力を育むことで感情調整を促進します。


【方法】
2017年7月までに発表された無作為化比較試験(RCT)をCochrane Library、PubMed、PsycINFO、Scopus、IndMEDなどから検索。対象は成人のPTSD患者で、診断は臨床面接または信頼性のある自己報告尺度で行われたもの。ヨガ介入群と無治療群、または注意コントロール群を比較し、PTSD症状の変化を標準化平均差(SMD)で算出。エビデンスの質はGRADE基準で評価。


【結果】
計7件のRCT(計284名)が対象となりました。ヨガは無治療群との比較で、症状軽減に大きな効果があり(SMD = -1.10)、臨床的にも意味のある改善を示しました。ただしエビデンスの質は「低」と評価されました。一方、注意コントロール群との比較では有意差は見られず(SMD = -0.31)、質は「非常に低」。身体姿勢を含むヨガでは効果が見られましたが、呼吸法中心のヨガでは効果は確認されませんでした。有害事象は深刻なものは報告されませんでした。


【考察】
ヨガはPTSD症状を軽減する可能性がありますが、研究の質や対象者数が限られており、推定効果が実際の効果と大きく異なる可能性があります。効果は身体姿勢を含むヨガで顕著であり、単なる呼吸法や瞑想だけでは十分ではない可能性があります。また、ヨガの効果は心理療法や薬物療法を完全に置き換えるものではなく、補助的な役割が適切と考えられます。


【結論】
身体姿勢を含むヨガはPTSDに対して安全かつ受け入れやすい補助療法となり得ますが、推奨度は「弱い」とされます。より質の高い研究が必要であり、特に既存の標準治療との比較や、ヨガの各要素(姿勢・呼吸・瞑想)の効果の切り分けが求められます。

引用文献は下記よりご覧下さい.

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