top of page
studio Sahana logo ヨーガ ヨガ ヨガスタジオ ヨガセラピー
Study

慢性腰痛とヨガ ─ 痛み・心・神経をまとめてケアする補助療法として

慢性腰痛とヨガ ─ 痛み・心・神経をまとめてケアする補助療法として
記事作成日
2025年11月25日

慢性腰痛って、「腰そのものの問題」というより、「腰の痛みと一緒に長く生きてきた神経と心のクセ」のようなところがありますよね。レントゲンやMRIに写る変化だけでは説明できない痛みが続いたり、その痛みがきっかけで、動くことが怖くなったり、仕事や家族との関係までじわじわと影響していきます。

この論文は、そんなややこしい慢性腰痛を、「ヨガ」を通して丁寧に見直しているレビューです。読み進めていくと、腰痛と聞いたときに思い浮かべる「骨」「椎間板」「筋肉」といったパーツだけではなく、うつ・不安・ストレス、痛みの破局的思考、自律神経、ホルモン、脳の構造変化、中枢・末梢の感作…といったキーワードが次々に登場してきます。

僕たちはつい、「痛み=どこか壊れている」というイメージで考えがちですが、このレビューを読むと、「痛み=身体の状態+心の状態+神経が学習してしまったパターン」の総和なのだな、という感覚が強くなります。そして、ヨガはまさに、その総和全体に静かに介入していく実践として描かれています。

例えば、論文の中では、1分間に3〜6呼吸までゆったりと息を整えていく「ヨガの呼吸」が、自律神経とHPA軸に作用し、コルチゾールやGABAといったホルモン・神経伝達物質のバランスを変えていく可能性が示されています。これは、「リラックスしましょう」というあいまいな話ではなく、迷走神経や脳の特定の領域を通じて、ストレス応答そのものを書き換えていく作業と言えます。

アーサナの研究も面白いですね。
シャラバーサナのようなポーズをとるとき、腰背部の筋肉がどのくらい厚みを増し、どの筋がどの程度「本気で働いているのか」を超音波で観察している研究が紹介されています。そこから見えてくるのは、「なんとなくストレッチしている」のではなく、背骨を支える深い筋肉たちが、きちんと再教育されていくという事実です。腰が不安だからこそ固めてしまうパターンから、「しなやかに支えられる」パターンへの移行ですね。

さらに、痛みの破局的思考や自己効力感の話も出てきます。
痛みが続くと、「この先ずっと変わらないのでは」「また痛くなるに違いない」といったストーリーが心の中で強くなっていきます。ヨガは、そのストーリーに直接「あなたは間違っている」と言うのではなく、呼吸と動き、瞑想を通じて、「痛みと一緒にいても、自分のほうが少し上から全体を見られる」感覚を育てていくことができるのです。研究の中では、それが痛みの破局的思考のスコアの低下や、自己効力感の上昇として数値化されています。

このレビューが良いなあと感じるのは、「ヨガさえやれば全部解決します」というトーンでは書いていないところです。薬物療法や理学療法、運動療法と比べたとき、ヨガは「少なくとも同じくらいには効くし、ときにそれ以上に広い範囲をカバーしてくれる。ただし、研究の質や標準化にはまだ課題が多い」と、かなり誠実に書かれています。だからこそ、臨床家が実際に患者さんと向き合うときに、「治療の一つの柱」としてヨガを勧めるための根拠資料として、とても扱いやすい内容になっています。

慢性腰痛を持つ方にとって、「動くと悪くなりそう」という恐怖はとても現実的な感覚です。この論文を通して見えてくるのは、「もちろん無理は禁物だけれど、正しくデザインされたヨガは、むしろその恐怖と痛みのループを少しずつほどいていく手段になりうる」という視点だと思いますよ。

 下記、研究の要約まとめです。

Yoga as an Adjunctive Treatment for Chronic Low Back Pain: A Narrative Review

2024;27;E661-E675Yoga as an Adjunctive Treatment for Chronic Low Back Pain: A Narrative Review
Narrative Review
Andrea Nikolis, MD, Louis Nikolis, MD, and Adele Meron, MD.

【タイトル】
慢性腰痛の補助的治療としてのヨガ:ナラティブレビュー


【背景】
この論文は、慢性腰痛(chronic low back pain:CLBP)の治療において、ヨガがどのように役立つのかを「心・身体・社会」を含めたバイオサイコソーシャル・モデルの視点から整理したナラティブレビューです。

慢性腰痛は、アメリカでは成人の約13〜20%が悩まされているとされ、最も大きな障害要因であり、医療費・社会的コストともに非常に大きい疾患です。従来の治療では、痛みそのものに対する対処はあっても、不安や抑うつ、慢性ストレス、痛みの破局的思考といった「心の側面」や、自律神経・ホルモン・感作といった「神経生理学的な側面」を十分にカバーしきれていないという課題があります。

そこで著者たちは、ヨガがこの複雑な問題に対して、補助的(adjunctive)な治療としてどこまで貢献しうるのかを、既存の研究から総合的に検討しています。


【慢性腰痛(Chronic Low Back Pain:CLBP)について】
慢性腰痛とは、3か月以上持続し、過去6か月のうち半分以上の日で痛みを感じている腰痛と定義されています。
単に「筋肉や骨の問題」ではなく、中枢・末梢の「感作」、自律神経の過活動、炎症、ホルモンバランスの乱れ、うつや不安、睡眠障害、薬物依存など、さまざまな要因が絡み合って慢性化している状態です。
著者らは、慢性腰痛を「感作された痛みのネットワーク」として捉え、そのネットワーク全体にヨガがどのように働きかけうるかを検討しています。


【バイオサイコソーシャル・アプローチ(biopsychosocial approach)について】
バイオサイコソーシャル・アプローチとは、生物学的(bio)、心理的(psycho)、社会的(social)の三つの側面を統合して治療を考える枠組みです。
慢性腰痛では、筋・骨格系や神経系といった身体だけでなく、不安・抑うつ・ストレス・痛みの破局的思考といった心理的要因、就労や人間関係・経済的ストレスといった社会的要因が、互いに影響し合いながら痛みを長引かせています。
著者らは、このアプローチこそが慢性腰痛に最も適切であると前提し、そのうえで「ヨガはこの三つの層をすべてにまたがる数少ない介入である」と位置づけています。


【慢性腰痛とバイオサイコソーシャル・アプローチ、ヨガとの関係について】
この論文では、慢性腰痛とヨガを結びつけるキーワードとして、慢性腰痛(CLBP)、バイオサイコソーシャル・アプローチ、中枢感作・末梢感作(central / peripheral sensitization)、痛みの破局的思考(catastrophizing)、うつ・不安・慢性ストレス、自律神経系(交感神経・副交感神経)、HPA軸とコルチゾール、GABAなどの神経伝達物質、脳の灰白質容量、機能障害・活動制限・疲労・睡眠の質・薬物依存といった概念が次々と登場します。

ヨガは、姿勢(アーサナ)、呼吸(プラーナーヤーマ)、瞑想(ディヤーナ)を通じて、自律神経とHPA軸のバランスを整え、コルチゾールやGABAのようなホルモン・神経伝達物質に影響を与えます。その結果として、不安や抑うつ、慢性ストレス、痛みの破局的思考がやわらぎ、痛みとの付き合い方や自己効力感が変化します。
また、背筋群や体幹筋の収縮パターン、脊柱の可動域を改善し、筋持久力を高めることで、機械的な意味での腰への負担を減らしていきます。

さらに、脳画像研究では、ヨガ実践者で海馬の灰白質容量が増え、扁桃体の容量が減るといった所見も報告されており、痛みとストレスに関わる脳のネットワーク自体が「組み替えられていく」可能性が示されています。こうした多層的な影響を通じて、ヨガはバイオサイコソーシャルなキーワードのほぼ全てに接続する介入として描かれています。


【方法】
この論文はナラティブレビュー(物語的総説)です。
著者らは2023年2月時点でPubMedとGoogle Scholarを検索し、「chronic low back pain」「low back pain」「chronic pain」「stress」などの語と「yoga」を組み合わせた検索式で313件の論文を抽出しました。

その中から、成人を対象に、ハタ・ヨガ(姿勢・呼吸・瞑想を含む)を用いて慢性腰痛や慢性痛への影響を検討している、査読付き英語論文のみを条件に絞り込み、最終的に24本を解析対象としています。

各論文について、研究デザイン、患者背景、ヨガ介入の内容、比較対象(通常ケア・運動療法・教育など)、痛み・機能・メンタルヘルス・神経生理学的指標などのアウトカムを抽出し、GRADEシステムを用いてエビデンスの質を「とても低い〜中等度」に評価したうえで、共通するテーマごとに結果を整理しています。


【結果】
結果として、慢性腰痛患者では、不安や抑うつ、慢性ストレス、痛みの破局的思考が高い割合で見られ、それが痛みの持続や日常生活の障害に深く関わっていることがまず確認されました。

そのうえで、ヨガ介入を行った研究では、多くの試験でうつ・不安・ストレスレベルの改善、痛みの破局的思考の低下が報告されています。これは、ヨガが交感神経の過活動を落ち着かせ、副交感神経やGABAを介して情動調整に働きかけている可能性と関連づけて説明されています。

身体面では、痛みの強さ・活動制限・障害度・疲労感・仕事や日常生活への参加、睡眠の質、鎮痛薬の使用量などが、多くの研究でヨガ群のほうが有利でした。
また、特定のポーズ(たとえばシャラバーサナ系)では、腰背筋群の収縮厚が増し、脊柱の屈曲・伸展・側屈の可動域も、一般的な体操や運動より大きく改善していました。さらに一部の研究では、痛みの感作を示す指標である痛覚閾値や、下行性疼痛抑制(DNIC)もヨガによって改善し、中枢感作の軽減が示唆されています。

全体として、ヨガは慢性腰痛患者の精神症状、身体症状、機能障害、疲労・睡眠、薬物依存といった多面的な領域に、プラスの影響を与える傾向があるという結論が導かれています。


【考察】
著者らは、慢性腰痛が「単なる腰の炎症」ではなく、「神経系が過敏になった結果としての痛みのループ」であることを強調します。そのループには、HPA軸の過剰なコルチゾール分泌、海馬の萎縮、扁桃体の肥大、自律神経のアンバランス、GABA低下による抑制系の弱さなどが関わっています。ここに長期のストレスや不安、痛みへの恐怖が重なることで、中枢・末梢の感作が維持されてしまうという見方です。

ヨガは、呼吸を3〜6回/分にまでゆっくりとし、腹部を大きく動かす呼吸によって、迷走神経を介した副交感神経優位の状態を作り、HPA軸と自律神経を「鎮める」方向へ働きます。また、繰り返しのアーサナ実践により、腰背筋の安定性と柔軟性が高まり、「動くと痛いかもしれない」という恐怖を減らしながら、実際に痛みの閾値を上げていきます。瞑想は注意の向け方や内的な対話の質を変えることで、「痛みをどう意味づけるか」というメンタルな部分にも作用します。

ただし、このレビューも限界を明確に指摘しています。研究の質は「とても低い〜中程度」で、サンプルサイズが小さい試験や単一施設の試験が多く、ヨガのプログラム内容も標準化されていません。自己選択バイアス(ヨガをやってみたい人だけが参加している)も避けがたく、結果を一般化するには慎重さが必要です。今後は、より大規模で前向きな試験、標準化されたヨガ・プロトコル、長期フォローアップを備えた研究が求められるとまとめています。


【結論】
現在行われている慢性腰痛の標準的な治療だけでは、バイオサイコソーシャルな全体像を十分にカバーできておらず、痛みの慢性化と障害を完全には防げていません。そのなかで、ヨガは、精神面(うつ・不安・ストレス・破局的思考)、身体面(痛み・機能障害・脊柱可動性・筋力)、神経生理学(自律神経・HPA軸・GABA・感作)をまたいで働きかける、安全性の高い補助的治療として有望であると結論づけられています。

著者らは、ヨガが薬物療法や理学療法、運動療法と対立するものではなく、「それらに重ねて用いることで、初めて本来のバイオサイコソーシャルな治療に近づいていく」介入であると位置づけています。

引用文献は下記よりご覧下さい.

もし、掲載内容と論文に誤りがございましたらご連絡いただけると幸いです。

Copyright ©2018-2025 studio Sahana All Rights Reserved.

studio Sahanaのロゴです「Sahana」というサンスクリット語は「静かなる力強さ」を意味します

〒231-0023

神奈川県​横浜市中区山下町​​112-3

ポートタワー山下町902

 

E-mail: info@studio-sahana.com

 

​​​​​

bottom of page