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ヨガが自己免疫疾患患者のメンタルヘルスに与える影響 ─ 不安・うつ・疲労への新しいアプローチ

記事作成日
2025年10月8日
自己免疫疾患を持つ人の多くは、身体だけでなく心も疲れ切っているのではないでしょうか。痛み、倦怠感、眠れない夜…。薬は症状を抑えてくれても、心の深い部分までは癒せないかもしれません。そんな人たちにとって、ヨガは“もう一つの治療法”として検討の余地がありそうです。
このレビューでは、多発性硬化症や関節リウマチ、炎症性腸疾患の患者を対象にした11の研究をまとめています。結果は驚くほど一貫していて、ヨガを続けた人たちは、不安が減り、うつ症状が軽くなり、疲れがやわらぎ、そして「自分でもコントロールできる」という感覚(自己効力感)を取り戻していました。
そして面白いことに、ヨガの形はさまざまだったんですよね。スタジオで行うハタヨガ、アイアンガーヨガ、自宅で続けられるテレヨガなどなど。どのスタイルでも、効果は共通していました。体を動かし、呼吸を整え、意識を“今ここ”に戻すという繰り返しが、心と免疫系の暴走を静かに鎮めていくのです。
研究者たちは、炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-α)がうつや不安を悪化させることに注目しています。ヨガによってこれらの炎症マーカーが下がることが分かっているのです。つまり、ヨガは“体の炎症を通して心を癒す”という、これまで見過ごされてきた経路に働きかけているんですよ。
病気とともに生きる時間が長いほど、心がすり減ってしまうかもしれません。けれど、呼吸を整え、身体を感じ、静けさの中で「今の自分」に戻る時間があれば、また少しずつ回復していけるのだと思います。
医療の現場でも、もっとヨガが“副作用のない薬”として当たり前に処方される日が来るといいですね。
下記、研究の要約まとめです。
The Effects of Yoga on the Mental Health of Individuals With Autoimmune Disorders: A Scoping Review
Nagy S, Tague K, Ossorio A, Patel N, Callahan R, Jose E, Tran M, Mejia A, Centrella M, McPhail MN, Junco J, Kesselman MM. The Effects of Yoga on the Mental Health of Individuals With Autoimmune Disorders: A Scoping Review. Cureus. 2025 Jan 19;17(1):e77669. doi: 10.7759/cureus.77669. PMID: 39968418; PMCID: PMC11835279.
【タイトル】
自己免疫疾患をもつ個人のメンタルヘルスに対するヨガの効果:スコーピングレビュー
【背景】
自己免疫疾患は世界で人口の約10%が罹患するとされ、特に女性に多く見られます。これらの疾患は、免疫系が自分自身の細胞を攻撃してしまうことで慢性炎症を引き起こし、関節、神経、腸管、皮膚などの多臓器に障害を与えます。
通常の治療はステロイドや免疫抑制剤が中心ですが、長期使用による副作用が問題視され、患者はより自然で副作用の少ない補完療法を求めています。その中でも、心身両面に作用するヨガが注目されてきました。
従来の研究では、ヨガの「身体的な効果(痛み・可動域・炎症の改善)」が主に調べられていましたが、この論文では、「精神的健康(ストレス・不安・抑うつ・疲労感)」に対するヨガの影響に焦点が当てられています。
【Autoimmune Disorders(自己免疫疾患)について】
自己免疫疾患は、免疫系が誤って自己を攻撃することで生じる慢性疾患群です。代表的なものに多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)などがあります。これらは慢性的な炎症、痛み、機能障害を引き起こし、結果として睡眠障害や抑うつ、不安を併発することが多いです。
【メンタルヘルスについて】
慢性疾患の罹患者は、身体症状だけでなく、孤立感・倦怠感・自己効力感の低下など、精神的負担を抱えやすいことが知られています。特に自己免疫疾患では、炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-α, CRP)が過剰に分泌されることで、うつや不安などの精神症状が悪化することが示されています。この炎症―心のつながりを穏やかに緩和できるのが、ヨガや瞑想のような「マインドボディ介入」です。
【自己免疫疾患とメンタルヘルス、ヨガの関係について】
ヨガは、呼吸・姿勢・瞑想を通して神経系と免疫系のバランスを整える「統合的な修復法」です。近年の研究では、ヨガの継続的な実践によってIL-6、CRP、TNF-αといった炎症マーカーが低下し、自律神経の調整、コルチゾールの安定、セロトニン分泌の促進など、心身両方の改善が観察されています。つまり、ヨガは「身体の炎症」と「心の炎症」の両方に作用する」可能性をもつ療法といえます。
【方法】
2000年から2023年までに発表された英語論文を、EMBASE・Ovid MEDLINE・Web of Science・CINAHLで検索しました。
「yoga」「autoimmune disorder」「multiple sclerosis」「rheumatoid arthritis」などのキーワードを組み合わせ、211本の論文から最終的に11本を採択しました。
対象となった疾患は、
・多発性硬化症(MS):8本
・関節リウマチ(RA):2本
・炎症性腸疾患(IBD):1本
ヨガ介入は6週間〜6か月にわたり、ハタヨガ、アイアンガーヨガ、オンラインヨガ(テレヨガ)など多様な形式で行われました。対象年齢は18〜64歳の成人で、主に女性が中心でした。
【結果】
ヨガ実践者では、
・ストレス:5本の研究で有意に軽減
・不安:6本の研究で有意に改善(Beck Anxiety Inventoryで最大48%減少)
・抑うつ:6本の研究で有意な低下(BDIスコア36%減)
・疲労:7本の研究で改善(特に多発性硬化症患者で顕著)
・自己効力感:3本で向上(痛みへの自己管理意識が高まる)
・睡眠:一部では変化なしだが、ストレス低下により間接的改善が見られた
と報告されています。
【考察】
このレビューは、ヨガが自己免疫疾患患者における「慢性炎症とストレスの連鎖」を断ち切る可能性を示しています。慢性炎症に伴うIL-6、CRP、TNF-αの上昇はうつ・不安の原因ともなりますが、ヨガによってこれらのマーカーが低下することが複数の研究で確認されました。
また、ヨガを通じて「呼吸・姿勢・意識」を統合的に再調整することが、迷走神経の働きを高め、自律神経系のバランスを整えるという神経免疫的メカニズムも考えられます。これにより、心身両面の疲労から回復し、“生きる力”の自己回復回路を再び動かすのです。
ただし、研究の多くは小規模・短期間であり、ヨガの種類や頻度も統一されていません。今後は、より標準化されたプログラムを通じて長期的な効果を追跡する必要があります。
【結論】
ヨガは、自己免疫疾患患者におけるストレス・不安・抑うつ・疲労を軽減し、自己効力感を高める有効な補完療法です。薬物治療だけでは補えない「心の回復」を支える安全で低コストの選択肢であり、特に女性患者にとって重要なメンタルケア手段となり得ます。
著者らは、医療従事者がヨガ療法を治療計画の一部として積極的に導入することを推奨しています
引用文献は下記よりご覧下さい.
もし、掲載内容と論文に誤りがございましたらご連絡いただけると幸いです。

