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重度精神疾患におけるヨガとマインドフルネスの役割──統合的アプローチの可能性

記事作成日
2021年1月21日
重度の精神疾患と聞くと、多くの方がまず薬による治療を思い浮かべると思います。もちろん薬物療法は不可欠ですが、それだけでは届きにくい部分があります。たとえば、統合失調症の陰性症状や認知機能の低下、うつ病の長引く気分の落ち込み、双極性障害の感情の波──こうした課題は薬だけでは十分に改善しないことも少なくありません。
そこで注目されているのが、ヨガとマインドフルネスです。ヨガは、体を動かすアーサナ、呼吸を整えるプラーナーヤーマ、心を静める瞑想を組み合わせ、心身を統合的に整える実践です。一方のマインドフルネスは、今この瞬間に意識を向け、内面の体験を評価せずに受け止める姿勢を養います。どちらも古代の知恵に基づきつつ、現代の科学的研究で効果が確かめられつつあります。
統合失調症では、ヨガが陽性・陰性症状の両方に良い影響を与え、特に感情鈍麻や社会的引きこもりの軽減が期待できます。また、感情認識能力の向上やオキシトシン濃度の上昇といった生物学的変化も報告されており、社会的な交流の改善につながる可能性があります。マインドフルネスは、不安や抑うつの低減、感情調整力の向上、さらには再入院率の低下といった結果が示されています。
大うつ病性障害では、ヨガは抗うつ薬の補助として症状改善に役立ち、マインドフルネスも抑うつや不安を軽減し、精神的な安定感や生活の質を高めます。双極性障害については研究数が限られていますが、既存の結果は感情の安定化や生活の質の改善を示唆しています。
なぜ効果があるのか。ヨガは身体と呼吸の動きを通じて自律神経系を整え、脳内のGABAやオキシトシンといった神経伝達物質の働きを変化させます。マインドフルネスは、ネガティブな思考や感情との距離を取り、客観的に観察できる「脱中心化」の力を養います。これにより、症状に巻き込まれにくくなり、自己効力感が高まります。
もちろん、すべての患者に万能ではありません。症状の重さや個人差、練習頻度、指導者の質などによって効果は変わります。それでも、このレビューで示された多くの研究は、「薬に加えて、体と心を整える実践を取り入れる」ことの価値を裏付けています。
重度の精神疾患に向き合う中で、「少しでも生活を良くしたい」「薬だけでは足りない部分を補いたい」と感じる方には、ヨガやマインドフルネスは一つの有力な選択肢になるはずです。そして、何より副作用が少なく、安全性が高い点も魅力ですね。
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当スタジオでは「ヨガが精神障害に効果的である」と断言するつもりはなく、「医療機関での治療と並行してヨガをすると効果的かもしれない」または「薬の効果が出にくい方に対して、ヨガが症状緩和の手助けとなり得るかもしれない」と考えております。
「ヨガをしてみるのも、いいかもしれない」と、皆様にすこし興味を持っていただけるきっかけとなればと思い、論文をご紹介しています。
ヨガを使った研究にご興味がある研究者の皆様は、ぜひともお気軽にお問い合わせください。また、補完的な行為としてヨガにご興味がある医療関係者の方も、お気軽にご連絡ください。
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下記、研究の要約まとめです。
Role of Yoga and Mindfulness in Severe Mental Illnesses: A Narrative Review.
Sathyanarayanan, Gopinath; Vengadavaradan, Ashvini; Bharadwaj, Balaji. Role of Yoga and Mindfulness in Severe Mental Illnesses: A Narrative Review. International Journal of Yoga 12(1):p 3-28, Jan–Apr 2019. | DOI: 10.4103/ijoy.IJOY_65_17
【タイトル】
重度精神疾患におけるヨガとマインドフルネスの役割:ナラティブレビュー
【背景】
ヨガは古代インドに起源を持ち、身体・心・魂を統合する実践法として発展してきました。一方、マインドフルネスは仏教文化に由来し、現在の瞬間への集中、内的経験の受容、評価をしない態度を重視します。現代医学の中でも、これらは薬物療法に加える補完的治療として注目されており、特に統合失調症、大うつ病性障害(MDD)、双極性障害(BD)といった重度精神疾患(SMI)に対する有効性が研究されています。本レビューは、過去10年間の関連文献を整理し、これらの介入がSMI患者の症状や機能に与える影響を評価しています。
【ヨガとマインドフルネスについて】
ヨガは大きく3つの要素──アーサナ(身体的ポーズ)、プラーナーヤーマ(呼吸法)、瞑想──から成り、心身の統合を促します。マインドフルネスは、意図的な注意の維持と、思考や感情を評価せず観察する姿勢を養う実践です。いずれもストレス、不安、抑うつ症状の軽減や、情動調整、自己理解の促進といった効果が報告されています。統合失調症に対しては、ヨガが陽性・陰性症状、一般精神病理、認知機能、社会的機能の改善に寄与する研究が多く、マインドフルネスは情動調整や再入院率の低下にも関連しています。MDDでは両者とも抑うつ症状の軽減に効果が示され、BDに関してはまだ研究が少ないものの、感情変動の抑制や再発予防への有用性が示唆されています。
【精神的な症状について】
SMIでは、幻覚・妄想などの陽性症状、感情鈍麻や社会的引きこもりなどの陰性症状、抑うつ、不安、注意・記憶障害といった幅広い症状がみられます。薬物療法は症状軽減に有効ですが、認知機能や社会的機能への効果は限定的で、副作用の問題もあります。そのため、非薬物的アプローチとして、ヨガやマインドフルネスが心理社会的機能の改善、自己効力感の向上、ストレス反応の緩和などを通じて補完的な役割を果たす可能性があります。
【方法】
PubMed、Google Scholar、Cochrane Libraryで「yoga」「mindfulness」「schizophrenia」「bipolar disorder」「depressive disorder」などのキーワードを用いて検索し、過去10年間に発表された英語論文を対象としました。臨床試験、無作為化比較試験、非無作為化試験、症例報告など49本の研究を抽出し、統合失調症、MDD、BDにおける効果を整理しました。
【結果】
統合失調症では、ヨガはPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)の全般的改善、特に陰性症状(感情鈍麻、社会的引きこもりなど)の軽減、認知機能や感情認識能力の向上、オキシトシン濃度上昇による社会認知の改善が報告されています。マインドフルネスは不安・抑うつの低減、感情調整能力の向上、再入院率の低下に寄与する研究がありました。MDDでは、ヨガは抗うつ薬補助療法として症状改善に効果があり、マインドフルネスも抑うつや不安、精神的幸福感を改善することが示されました。BDの研究は少ないものの、ヨガやマインドフルネスは感情の安定化や生活の質の向上に有望な結果を示しています。
【考察】
ヨガとマインドフルネスは、身体的活動と注意制御、呼吸や瞑想を組み合わせることで神経生物学的・心理社会的な両面から作用します。ヨガは自律神経系やホルモン系(例:オキシトシン、GABA)の変化を通じて感情や認知を改善し、マインドフルネスはメタ認知や脱中心化の促進により、症状との新しい関わり方を可能にします。ただし、研究間の方法論のばらつき、症例数の少なさ、長期効果の検証不足が課題です。
【結論】
統合失調症、MDD、BDといった重度精神疾患において、ヨガとマインドフルネスは薬物療法に補完的に用いることで、症状軽減、認知・社会機能の向上、再発予防に寄与する可能性があります。副作用は少なく、多くの患者で安全に実施できると考えられますが、より大規模かつ厳密な研究が必要です。
引用文献は下記よりご覧下さい.
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