
Study
ヨガがメタボリックシンドロームの中高年肥満者におけるホルモンバランスと体力を改善する可能性

記事作成日
2021年1月21 日
メタボリックシンドローム、いわゆる「メタボ」は、単なるお腹周りのサイズの話ではありません。高血圧や高血糖、脂質異常など、将来の心臓病や糖尿病のリスクがいくつも重なった状態です。その中でも腹部肥満は中心的なサインで、いわば“体の警報ランプ”のような存在です。
この研究は、そんな腹部肥満を抱えた中高年の方が、1年間ヨガを続けたらどう変わるのかを追ったものです。週3回、1回60分のハタヨガ中心のプログラム。呼吸法やポーズ、リラクゼーションを含むバランスのとれた内容です。
結果は興味深いものでした。まず見た目の変化として、腹囲が平均で4%減少。一方、何もしていない対照群は逆に2%増えていました。さらに、下肢の筋力や柔軟性、片足立ちのバランスも大きく改善。これは、日常生活の動きや転倒予防にも直結する変化です。
もっと面白いのは、体の中の“代謝ホルモン”の変化です。食欲や代謝に関わるグレリンというホルモンには2つのタイプがあります。ひとつはアシル化グレリン(AG)、もうひとつは非アシル化グレリン(UnAG)。今回の結果では、UnAGが増え、AGが減っていました。UnAGはインスリン感受性の改善や脂肪の分布調整に関わるとされ、逆にAGは高血圧やインスリン抵抗性と関係が深いとされています。つまり、この変化は代謝の質をよくする方向といえるかもしれません。
さらに、成長ホルモン(GH)も増加していました。GHは筋肉や骨の健康だけでなく、脂肪燃焼にも関わるホルモンです。中高年では年齢とともに減っていく傾向がありますが、それがヨガで底上げされたというのは注目すべき点です。
ただし、血糖やインスリン抵抗性の指標(HOMAモデル)では、大きな変化は見られませんでした。これは対象者の中に、もともと血糖や血圧が正常範囲の人も多かったため、改善余地が少なかった可能性があります。
この研究から見えてくるのは、ヨガは単なるストレッチやリラックス法ではなく、ホルモンのバランスや代謝の質にまで影響を与える可能性があるということです。そして、その変化はお腹周りのサイズダウンや体の動きやすさにもつながります。
もし今、「運動は苦手」「関節に負担をかけたくない」という理由で何もしていない方がいたら、ヨガは有力な選択肢です。無理なく続けられて、しかも体の中から変えていく力がある。1年後の自分を想像しながら、マットの上に座ってみる価値は大いにあります。
下記、研究の要約まとめです。
One Year of Yoga Training Alters Ghrelin Axis in Centrally Obese Adults With Metabolic Syndrome.
Yu Angus P. , Ugwu Felix N. , Tam Bjorn T. , Lee Paul H. , Lai Christopher W. , Wong Cesar S. C. , Lam Wendy W. , Sheridan Sinead , Siu Parco M.
One Year of Yoga Training Alters Ghrelin Axis in Centrally Obese Adults With Metabolic Syndrome
Frontiers in Physiology Volume 9 - 2018
10.3389/fphys.2018.01321 1664-042X
【タイトル】
メタボリックシンドロームを有する中高年腹部肥満成人における1年間のヨガトレーニングがグレリン軸に及ぼす影響
【背景】
メタボリックシンドローム(MetS)は、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクを高める複数の要因が同時に存在する状態で、特に腹部肥満は重要な特徴です。近年、インスリンや成長ホルモン(GH)に加えて、グレリンやオベスタチンなどの代謝ペプチドの異常がMetSと関連することがわかってきました。グレリンには、アシル化型(AG)と非アシル化型(UnAG)があり、代謝や食欲、インスリン感受性に影響します。これらのホルモンのバランスはMetSの病態に関与している可能性があります。ヨガは、運動と呼吸、精神集中を組み合わせた心身運動として、MetS改善に有用とされますが、代謝ペプチドへの影響は十分に解明されていません。
【メタボリックシンドロームとは】
MetSは、腹部肥満、高血圧、高血糖、高中性脂肪、低HDLコレステロールのうち複数が同時に存在する状態です。これらは心筋梗塞や脳卒中、糖尿病の発症リスクを大幅に高めます。特に腹部肥満は中心的な診断基準とされ、内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性や炎症反応を悪化させます。
【ヨガとメタボリックシンドロームについて】
ヨガは、比較的負担が少なく長期的に継続しやすい運動法として、MetSの予防や改善に推奨されています。先行研究では、ヨガが腹囲の減少、血圧や血糖の改善、インスリン抵抗性の軽減につながる可能性が示されています。しかし、グレリンやオベスタチンなどの代謝ホルモンに対してどのように作用するかは不明でした。
【方法】
本研究は、香港で実施された1年間のヨガ介入試験の追跡解析です。対象は、腹部肥満を必須条件とし、他に少なくとも2つのMetSリスク因子を持つ中高年者79名(ヨガ群39名、対照群40名、平均年齢58歳)。ヨガ群は週3回、1回60分、ハタヨガを中心としたプログラムを1年間実施。介入前後で体格・血液データ・体力測定を行い、血中のAG、UnAG、総グレリン、オベスタチン、GH、インスリンを測定し、HOMAモデルでβ細胞機能やインスリン抵抗性を評価しました。
【結果】
1年間のヨガ実施後、ヨガ群は対照群に比べて腹囲が有意に減少(−4% vs +2%)し、心拍数低下、下肢筋力・柔軟性・バランス能力が改善しました。ホルモンでは、ヨガ群は総グレリン(+13%)、UnAG(+14%)、GH(+22%)が増加し、AG(−33%)とオベスタチン(−29%)が減少しました。一方、インスリン値やHOMA指標には有意な差はなく、インスリン感受性にわずかな改善傾向が見られました。
【考察】
ヨガは腹部肥満の改善と身体機能向上に加え、グレリン関連ホルモンのバランスを変化させました。特にUnAGの増加とAGの減少は、インスリン感受性や血圧改善に有利に働く可能性があります。GHの増加は脂肪分解促進を通じて内臓脂肪減少に寄与したと考えられます。インスリン抵抗性に明確な改善が見られなかった理由として、対象者の一部が血糖や血圧正常域だったこと、性差やサンプルサイズの制約が考えられます。
【結論】
1年間のヨガは、MetSを持つ腹部肥満者において、身体機能と体組成を改善し、グレリン軸とGHの変化を伴いました。これらのホルモン変化はMetS改善に関与する可能性があり、今後はそのメカニズム解明が必要です。
引用文献は下記よりご覧下さい.
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