
Study
関節リウマチ患者における「ヨガ・イン・デイリーライフ」プログラムの効果 ─ 疲労と不安の軽減に注目

記事作成日
2022年1月20日
ここ日本においても、関節リウマチを患っている方は少なくないと思いますし、関節炎や関節痛などを皆さんも過去に一度は経験されているのではないでしょうか。
関節リウマチという病気は、単に「関節が痛い」というだけの話ではありません。長く続く炎症が体力を奪い、じわじわと疲労感が積み重なり、気持ちも落ち込みやすくなる。そんな状態が続くと、日常の何気ないことさえ億劫になってしまいます。
今回の研究は、その「疲労」と「心の重さ」にヨガがどう効くのかを、きちんとデータで確かめたものです。使われたのは「Yoga in Daily Life」というプログラム。体をやさしく動かすアーサナ、深い呼吸法、短い瞑想、そしてリラクゼーションがセットになっていて、まさに心身のリセット時間といえる内容です。
参加したのは、炎症が安定している関節リウマチ患者さん57人。ヨガグループは週2回90分を12週間続け、もう一方のグループは週1回の教育講義を受けました。そして3か月後、ヨガグループでは「疲れにくさ」がはっきりと改善し、気分の落ち込みも軽くなっていました。さらに半年後も疲労改善は続き、不安感も減っていたのです。
興味深いのは、このヨガが激しい運動ではないこと。関節や筋肉に負担をかけない工夫がされていて、参加率は87.5%と非常に高く、安全性も確認されています。「運動不足はよくないと分かっていても、何をしていいか分からない」「関節を痛めるのが怖い」という方にとって、これは安心して始められる選択肢になり得ます。
もちろん、このプログラムだけで病気そのものが治るわけではありません。炎症や関節破壊の進行を抑える薬は必要です。ただ、薬だけでは届きにくい「疲れ」と「心」に、このヨガはしっかり届く可能性があります。
僕が感じたのは、「治療」というと薬や手術ばかりに目が行きがちですが、こういう日常に組み込めるケアこそ、長く付き合う病気には欠かせないのではないか、ということです。疲れが減れば外出や趣味の時間も増え、気分が明るくなれば人との関わりも楽しめる。そうやって少しずつ生活全体が変わっていく──それを後押しできるのが、Yoga in Daily Lifeなのだと思います。
下記、研究の要約まとめです。
Effects of Yoga in Daily Life program in rheumatoid arthritis: A randomized controlled trial
Silva Pukšić, Joško Mitrović, Melanie-Ivana Čulo, Marcela Živković, Biserka Orehovec, Dubravka Bobek, Jadranka Morović-Vergles,
Effects of Yoga in Daily Life program in rheumatoid arthritis: A randomized controlled trial,
Complementary Therapies in Medicine,
Volume 57, 2021, 102639, ISSN 0965-2299,
https://doi.org/10.1016/j.ctim.2020.102639.
【タイトル】
関節リウマチにおける「ヨガ・イン・デイリーライフ」プログラムの効果:ランダム化比較試験
【背景】
関節リウマチ(RA)は関節の炎症や破壊による痛みや機能障害だけでなく、慢性的な疲労や心理的ストレスによって生活の質(HQOL)を大きく損なう疾患です。薬物療法の進歩により炎症コントロールは向上しましたが、疲労や気分障害の改善は必ずしも伴わないことが多く、非薬物的アプローチの必要性が指摘されています。近年、ヨガは心身双方に働きかけるマインドボディ療法として注目され、関節リウマチにおいても安全かつ効果的な補完療法となる可能性があります。本研究は、インド発祥の包括的ヨガ体系「Yoga in Daily Life」プログラムがRA患者の健康関連QOL、身体機能、心理的指標に与える影響を検証しました。
【関節リウマチについて】
関節リウマチは自己免疫反応により関節滑膜が炎症を起こし、進行すると軟骨や骨が破壊される疾患です。痛みやこわばりに加え、慢性的な疲労、抑うつ、不安など全身症状も伴い、日常生活や社会活動に影響します。
【ヨガ・イン・デイリーライフについて】
Yoga in Daily Lifeは、インドのヨガ師ヴィシュワグル・パラマハンサ・シュリ・スワミ・マヘーシュワラナンダ師が体系化したプログラムで、アーサナ(体位法)、プラーナーヤーマ(呼吸法)、瞑想、リラクゼーションを統合的に行い、心身・精神・社会的な健康の向上を目指します。
【これらのキーワードとヨガの関係について】
関節リウマチ患者にとって、炎症のコントロールだけでなく、疲労感や心理的負担の軽減が生活の質向上に不可欠です。Yoga in Daily Lifeは、体位法と呼吸法による自律神経系やホルモン系への「ボトムアップ」効果、瞑想による「トップダウン」効果を組み合わせ、心身双方に作用します。これにより、RA患者の疲労、不安、抑うつなどの症状緩和が期待されます。
【方法】
クロアチア・ザグレブ大学病院で行われた単施設ランダム化比較試験。対象は2010年ACR/EULAR基準で診断された18〜75歳のRA患者57名で、ヨガ群(30名)と教育コントロール群(27名)に無作為割付。ヨガ群は週2回90分、12週間のYoga in Daily Lifeプログラム(リラクゼーション、アーサナ、呼吸法、瞑想)を実施。コントロール群は週1回60分の関節リウマチ関連教育講義を受講。主要評価項目はSF-36によるHQOLスコアの変化、副次評価項目としてFACIT-fatigue(疲労)、HADS(抑うつ・不安)、PSS(ストレス)、DAS28CRP(疾患活動性)などを測定し、12週後と24週後に評価しました。
【結果】
主要評価項目であるSF-36スコアには群間差は認められませんでしたが、ヨガ群では12週時点で疲労スコア(FACIT-fatigue)が有意に改善(+5.08ポイント、p=0.009)、抑うつスコア(HADS-D)が有意に低下(−1.37ポイント、p=0.008)。24週時点でも疲労改善効果(+5.43ポイント、p=0.01)が持続し、不安スコア(HADS-A)が有意に低下(−1.79ポイント、p=0.025)しました。疾患活動性(DAS28CRP)、痛み(VAS)、炎症マーカー(CRP)、ストレス(PSS)には有意差はありませんでした。プログラム参加率は87.5%と高く、有害事象は軽微で安全性が確認されました。
【考察】
Yoga in Daily LifeはHQOLの総合スコアには影響を与えなかったものの、慢性的な疲労と心理的負担(不安・抑うつ)を軽減し、その効果は一定期間持続しました。疲労はRA患者における大きな未充足ニーズであり、薬物療法では改善しにくい症状の一つです。本プログラムは穏やかな運動と呼吸・瞑想を組み合わせており、安全かつ参加しやすいため、運動不足解消と心理的安定の双方に寄与する可能性があります。
【結論】
Yoga in Daily Lifeは、関節リウマチ患者において安全で実行可能な補完療法であり、特に疲労と心理的症状の改善に有効です。標準的な「Treat-to-Target」戦略に加え、日常生活に取り入れることで生活の質向上をサポートできる可能性があります。今後は、より長期的な効果や最適な頻度・期間を検証する必要があります。
引用文献は下記よりご覧下さい.
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