
Study
構造化ヨガプログラムが看護職のストレスと職業的生活の質に与える影響

記事作成日
2021年12月15日
病院で働く看護師さんたちが、どれほどのストレスを抱えて日々動いているか…これは医療現場に少しでも関わったことがある人なら、すぐに思い浮かぶ景色かもしれません。シフト勤務、緊迫した処置、患者さんの急変、時には暴言や暴力にもさらされる。そんな環境では、心も体も削られていきます。
この研究は、そんな看護職の方々に向けて「週2回の構造化ヨガプログラム」がどれほど役立つのかを試したものです。
インド・デリーの三次医療病院で働く看護師さん113人が参加し、半分は12週間のヨガ介入を受け、もう半分は待機リストに入りました。ヨガといっても、自己流ではなく、プロのヨガセラピストが組み立てたプログラム。準備運動から始まり、太陽礼拝、立位・座位・伏臥・仰臥のアーサナ、呼吸法、最後は深いリラクゼーションまで、50分間きっちり構成されています。
結果は明らかでした。介入群は、知覚ストレススコア(PSS)が平均で約29%低下。数値でいえば、対照群の20.7に対して介入群は15.4と、統計的に有意な差が出ました。さらに収縮期血圧も下がり、「身体の緊張」が和らいだ兆しも見えます。
ただし、職業的生活の質(ProQOL)については、やりがいや燃え尽き度、二次的外傷性ストレスに大きな変化はなし。血液マーカー(コルチゾール、CRP)にも有意差は見られませんでした。これは、12週間という期間や週2回という頻度では、深い職業的満足や炎症レベルの変化までは引き出せなかった可能性があります。
そしてもう一つ、現実的な課題が見えてきます。離脱率の高さです。時間の制約や勤務スケジュールの都合で、完遂できたのは介入群のわずか45%。自主練習も、プログラム終了後2カ月以内に全員がやめてしまったとのこと。つまり、監督付きでは成果が出やすいけれど、自分だけで続けるのは難しい。ここにこそ、次の課題が潜んでいます。
それでも、この研究が示しているのはシンプルです。「看護職のストレスは、ヨガで下げられる可能性が高い」ということ。そして、そのヨガは必ずしも毎日何時間も行う必要はなく、週2回・1回50分でも効果が出る、ということです。忙しい現場だからこそ、この“少ない頻度で効く”可能性は大きな意味を持ちます。
この論文は、医療現場のマネジメントや健康経営を考える人にも、ヨガを活用した職場メンタルケアを広げたい人にも、参考になるはずです。現場の負担軽減とケアの質向上、その両方を支える一つの方法として、構造化ヨガプログラムは有力な選択肢となるかもしれません。
下記、研究の要約まとめです。
Effect of Structured Yoga Program on Stress and Professional Quality of Life Among Nursing Staff in a Tertiary Care Hospital of Delhi-A Small Scale Phase-II Trial
1. Mandal S, Misra P, Sharma G, et al. Effect of Structured Yoga Program on Stress and Professional Quality of Life Among Nursing Staff in a Tertiary Care Hospital of Delhi—A Small Scale Phase-II Trial. Journal of Evidence-Based Integrative Medicine. 2021;26. doi:10.1177/2515690X21991998
【タイトル】
「デリーの三次医療病院に勤務する看護職における構造化ヨガプログラムがストレスと職業的生活の質に与える影響──小規模第II相試験」
【背景】
医療現場、とくに看護職はシフト勤務や高い業務負担、患者死亡や暴力などの予測不能な出来事により、慢性的なストレスやバーンアウトのリスクが非常に高い職種です。ストレスは精神面だけでなく、免疫・内分泌・心血管系など身体にも悪影響を与え、患者ケアの質低下や経済的損失にもつながります。従来からマインド・ボディ実践(瞑想やヨガなど)はストレス対処能力やレジリエンスを高める可能性が示されていますが、インドの看護職における「構造化されたヨガプログラム」の効果は十分に検証されていませんでした。
【看護職とストレスについて】
看護職は国内外で高い職業性ストレスを抱えており、インドでは最大87%が職務ストレスを感じ、約30%がバーンアウトを経験していると報告されています。これらは医療事故や感染リスクの増加、職場離脱などにつながる可能性があります。また、不適切なストレス対処(喫煙、過食、嗜癖)により、さらに悪循環が起こりやすくなります。
【職業的生活の質について】
職業的生活の質(ProQOL)は、ケア提供者の「コンパッション満足(やりがい)」「燃え尽き」「二次的外傷性ストレス」で構成されます。高ストレスはコンパッション満足を下げ、燃え尽きや二次的外傷性ストレスを高めます。看護の質や患者満足度を維持するためにも、この改善は重要です。
【ヨガとの関係性とは?】
ヨガは肉体・精神・スピリチュアルな側面を統合し、ストレス関連疾患の予防・改善効果が報告されています。副交感神経の活性化、酸化ストレスの低下、自己理解や自己受容の向上を通して、ストレス・不安を軽減し、職業的生活の質を高める可能性があります。
【方法】
・デザイン:オープンラベル並行群ランダム化比較試験(第II相、小規模)
・対象:インド・デリーの三次医療病院勤務の看護職113名(精神疾患治療中、妊娠中などは除外)
・群分け:ヨガ介入群(n=58)/ウェイトリスト対照群(n=55)
・介入内容:週2回50分×12週間の構造化ヨガ(準備運動、太陽礼拝、立位・座位・伏臥・仰臥アーサナ、呼吸法、深いリラクゼーション)
・主要評価項目:知覚ストレススケール(PSS)
・副次評価項目:職業的生活の質(ProQOL)、血圧、血清コルチゾール、高感度CRP(HS-CRP)
【結果】
・12週間後、PSSスコアは介入群で有意に低下(平均15.4)し、対照群(20.7)との間に有意差(p<0.0001)がありました。
・介入群では収縮期血圧も有意に低下しましたが、拡張期血圧は有意差なし。
・ProQOL(コンパッション満足、燃え尽き、二次的外傷性ストレス)は群間差なし。
・コルチゾールやHS-CRPにも有意な変化は見られず。
・ヨガによる有害事象は報告されませんでした。
・なお、介入群の完遂率は約45%と低く、スケジュールや時間的制約が離脱要因でした。
【考察】
構造化ヨガは、比較的短期間(週2回×12週)でも看護職の主観的ストレスを有意に低減させる可能性が示されました。ただし、ProQOLやバイオマーカーの改善は見られず、また自主練習の継続率は低いことから、長期的効果や持続性の確保には追加的な工夫が必要です。過去の研究でも看護職や学生におけるストレス低下効果は確認されていますが、今回もその傾向が支持されました。
【結論】
監督付きの構造化ヨガは、看護職の知覚ストレス軽減に有効である可能性があり、比較的安全で実施しやすい介入方法です。一方で、自主的継続は難しく、より大規模で長期的な検証と継続率向上策の開発が求められます。
引用文献は下記よりご覧下さい.
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