Adiga SH(a), Adiga RS(b), Bhat KMR(c), Upadhya D(d).
a:Division of Ayurveda, Centre for Integrative Medicine and Research, Manipal Academy of Higher Education, Manipal 576104, India
b:Aryavartha Ayurveda Centre, Perampalli, Udupi, 576104 India
c:Department of Anatomy, Kasturba Medical College, Manipal, Manipal Academy of Higher Education, Manipal 576104, India
d:Centre for Molecular Neurosciences, Kasturba Medical College, Manipal, Manipal Academy of Higher Education, Manipal 576104, India
Epilepsy Behav. 2024 Oct;159:110026. doi: 10.1016/j.yebeh.2024.110026. Epub 2024 Sep 4.


『てんかん管理におけるアーユルヴェーダ療法』


【背景】
てんかんは慢性的な非感染性の脳疾患で、世界中で約5000万人に影響を与えています。この疾患は発作の繰り返しを特徴とし、精神的、認知的、神経学的な併発症があるため治療が困難です。現代医学では、新世代の抗てんかん薬が開発されていますが、薬剤抵抗性を持つ症例や発作の完全な制御が難しい状況が続いています。これに対し、アーユルヴェーダの統合療法が注目されています。


【てんかんとは？】
てんかんは、脳の神経活動に異常が生じることで発生する慢性疾患です。症状としては以下が挙げられます：

・意識の喪失
・異常な動作（けいれんなど）
・認知機能や記憶力の低下

WHOによれば、適切な診断と治療を受ければ70％の患者が発作をコントロールできる可能性があります。


【アーユルヴェーダとは？】
アーユルヴェーダは、インド古来の包括的な医学体系で、心と体のバランスを整えることに重点を置いています。てんかんは、アーユルヴェーダでは「アパスマラ（Apasmara）」と呼ばれ、記憶や知性、精神の乱れによる意識喪失として説明されています。


【てんかんと現代医学】
現代医学では抗てんかん薬、遺伝子治療、細胞療法、食事療法（ケトジェニックダイエットなど）といった多様なアプローチが採用されていますが、次の課題があります：

・副作用のリスク
・発作の完全な制御が困難
・薬剤抵抗性の増加

これにより、他の治療法との統合が必要とされています。


【てんかんとアーユルヴェーダ医学】
アーユルヴェーダでは、次の3つの治療法を基にてんかんを管理します：

①Daiva Vyapashraya Chikitsa（信仰療法）：
…神聖な儀式や祈りを通じた治療。

②Satvavajaya Chikitsa（心理療法）：
…ヨガ、プラーナーヤーマ（呼吸法）、瞑想などを用いて心を落ち着かせる。

③Yukti Vyapashraya Chikitsa（合理的治療）：
…薬物療法と浄化療法（パンチャカルマなど）を併用し、ドーシャ（体質）に基づいた個別化治療を提供。

アーユルヴェーダでは、浄化療法とパリパッチャ療法（症状を抑える治療）を通じて、病気の根本的な原因を取り除くことを目指します。


【方法】
論文では、以下の方法でアーユルヴェーダの効果を調査しています：

A文献レビュー：アーユルヴェーダの古典文献と最新の研究データを解析。
B臨床研究：てんかん患者に対するアーユルヴェーダ療法の効果を評価。
C動物実験：アーユルヴェーダハーブや複合製剤の抗てんかん効果を動物モデルで検証。


【結果】
A文献レビューの結果：
…アーユルヴェーダ療法は、てんかんの発作の頻度と重症度を軽減し、副作用が少ない。
…特定のハーブ（例：バコパ、アシュワガンダ）が抗けいれん効果を持つ。

B臨床研究の結果：
…複数の研究で、発作の頻度が50％以上減少した患者が33.3％。
…ヨガや瞑想の併用でストレスと不安が軽減。

C動物実験の結果：
…アーユルヴェーダハーブは、酸化ストレスを低減し、神経保護効果を示した。
…複合製剤が従来薬（フェニトインなど）の効果を補完。


【考察】
論文は、てんかん治療におけるアーユルヴェーダ療法の可能性を強調しています。特に、薬剤抵抗性の患者や現代医学で効果が限定的な場合に、以下のような点で補完的な役割を果たすとされています：

・多面的な治療アプローチ：
…アーユルヴェーダは、浄化療法（パンチャカルマ）や薬理療法、心理療法を組み合わせて、心身全体をケアします。

・患者特有の治療：
…体質（ドーシャ）や病気の段階に基づく個別化治療が可能。

・ハーブと複合製剤：
…バコパ、アシュワガンダ、シャタバリなどのハーブが抗けいれん作用を持つことが研究で示されています。

・現代医学との統合の必要性：
…アーユルヴェーダと現代医学を統合することで、発作の頻度を減少させ、副作用を最小限に抑える可能性があります。

ただし、以下の課題も指摘されています：

・臨床試験の数が限られているため、科学的証拠の強化が必要。
・動物実験のデータが人間にそのまま適用できるかはさらなる検証が必要。
・伝統的な知識と現代の研究基準を融合する枠組みの構築。


【結論】
本論文は、アーユルヴェーダ療法がてんかん治療の新たな可能性を示していると結論付けています。特に、現代の抗てんかん薬が効果を発揮しないケースや、発作の予防と副作用管理において、補完的な治療手段としての有効性が示唆されています。また、パンチャカルマのような浄化療法、ハーブ製剤、心理療法（ヨガ、瞑想）などを統合した包括的なアプローチが患者のQOL（生活の質）向上に寄与することが期待されています。

ただし、今後は臨床試験や動物研究をさらに進め、アーユルヴェーダと現代医学の統合的枠組みを構築することが必要です。