
Column
瞑想のすゝめ ― 現代人に必要な「心のメンテナンス」としての瞑想習慣 ―
記事作成日
2021年1月20日
瞑想ってなに?
―「無」になるのではなく、「気づき」に目覚める技法
「瞑想」と聞くと、多くの方は目を閉じて座禅を組む僧侶の姿や、何も考えずに“無”になる時間を想像するかもしれません。中には「瞑想ってスピリチュアルな人がやるもの」「心が空になるって難しそう」と感じる方もいるでしょう。
たしかに、スティーブ・ジョブズをはじめとした著名な経営者が瞑想を取り入れていたことから、「クリエイティブな発想のための手段」としても注目を浴びました。しかし実際には、瞑想は決して一部の人のための特別なテクニックではありません。誰にでもできて、日常の質を劇的に高めることができる普遍的な習慣です。
実際、瞑想の効果は多数の研究により科学的に実証されています。たとえば、マインドフルネス瞑想を8週間実践した被験者は、ストレスホルモン(コルチゾール)の低下、扁桃体の活動抑制、前頭前野の灰白質増加が報告されており、これにより情緒安定・集中力向上・睡眠の質改善が認められています。
つまり瞑想とは、「無」になることを強要するのではなく、思考や感情に気づく習慣であり、自分の内側に静かに意識を向ける“トレーニング”なのです。
アシュタンガ・ヨガから紐解く瞑想の構造
― ヨガと瞑想は分けられない“ひとつの流れ”
ヨガには「アシュタンガ・ヨガ(八支則)」と呼ばれる体系があり、瞑想はその最終段階に位置づけられています。ラージャヨガの聖典『ヨーガ・スートラ』では、**瞑想(ディヤーナ)や三昧(サマーディ)**に至るために、事前に整えておくべき段階が明示されています。
この体系は「身体の外側に働きかける段階(バヒランガ・ヨガ)」と「内面に向かう段階(アンタランガ・ヨガ)」に分けられます。
◉ バヒランガ(外的実践):
・ヤマ:非暴力、誠実さなど行動の規律
・ニヤマ:自己浄化、満足など内的倫理
・アーサナ:安定した姿勢(ポーズ)
・プラーナヤーマ:呼吸法で生命エネルギーを制御
・プラティヤハーラ:感覚器官を内に向ける訓練
これらは、身体・呼吸・感覚の“ノイズ”を減らすための準備です。ここが整っていないと、瞑想中に身体が痛かったり、音や匂いが気になって集中が妨げられてしまいます。
◉ アンタランガ(内的実践):
・ダーラナ(集中)
・ディヤーナ(瞑想)
・サマーディ(三昧)
ダーラナとは、対象に意識を“縛る”こと。次第に雑念が減り、途切れない集中が続く状態がディヤーナです。そしてその意識さえも薄れ、対象と一体化する体験がサマーディとされます。
この流れを理解すれば、「ポーズをとることが瞑想につながっている」ことに納得がいくはず。ヨガと瞑想は切り離されたものではなく、一貫した自己探求の道なのです。
瞑想の材料は「記憶」や「経験」から
― 身近な体験が“集中”の扉を開く
「瞑想の対象って何を思い浮かべればいいの?」という質問はとても多く寄せられます。確かに、いきなり「無」を目指すのは難しいもの。そこでおすすめしたいのが、「記憶」にアクセスする瞑想です。
たとえば:
・家族や大切な人の笑顔や声をリアルに思い浮かべる
・自分が達成感を感じた場面を、五感ごとに再現する
・自然の中で感じた心地よさを再体験する
これは**“感覚記憶”を利用した集中トレーニング**であり、心理学でも感情調整の一環として活用されています。なにより、雑念に引っ張られず集中しやすく、「あっという間に時間が経つ」感覚を味わいやすいのです。
▷ 日常にも応用できる「能動的瞑想」と「受動的瞑想」
◆能動的瞑想:
…歩く、料理する、掃除するなどの動作に集中しながら、感覚と呼吸を整える瞑想。カルマヨガやバクティヨガに近いスタイル。
◆受動的瞑想:
…静かに座って、自分の呼吸や心の動きに意識を向ける。伝統的なヨーガ瞑想スタイル。
瞑想は「座らないとできないもの」ではありません。大切なのは、「今この瞬間に集中し、自己の反応を観察する姿勢」です。
姿勢が整えば、心も整う
― 安定した座法がもたらす精神的メリット
ヨガのアーサナ(座法)には、「動きのあるポーズ」も「静止する座り方」も含まれます。実際、瞑想に最も適したアーサナとは、「安定して、苦痛のない姿勢」だとされています。
【古典ヨガの教典:ヨーガ・スートラに学ぶ】
「アーサナとは、“揺るぎない心をつくるための、揺るがない姿勢”である」
― Patanjali's Yoga Sutra 第2章 第46節
…少し違う言い方をすると
「アーサナ(ヨガのポーズ)とは、安定していて快適な座り方である」
背骨が自然なS字カーブを保ち、骨盤が立ち、胸が開いた状態。こうした姿勢は内臓機能を活性化させ、深い呼吸を可能にし、自律神経を整える土台となります。
不安やイライラは、姿勢が崩れているときに増加しやすいとされます。これは、身体からの神経フィードバックが感情のバランスにも影響するため。逆にいえば、姿勢を整えるだけで「安心感」「集中力」が高まるのです。
安定した座法の継続は、「心の安定と忍耐力」を養う第一歩。ポーズにとらわれる必要はありません。「同じ姿勢で5分座る」ことを毎日続けるだけでも、瞑想の土台が育ちます。
快活さは“心の余白”から生まれる
― 瞑想がもたらす本当の豊かさ
落ち込んでいる時、ネガティブな感情が強くなっている時、食べ物や買い物で心を満たそうとすることがあります。でも、心が満たされていないと、何をしてもどこか虚しさが残ってしまいますよね。
「快活さ」とは、心に余白がある状態です。感情に巻き込まれず、自分の心を観察し、やさしく整える習慣がある人は、他者にもやさしく接することができます。
一休さんが言う「ひと呼吸、ひと呼吸」という言葉は、まさにこの“間”を大切にする感覚です。呼吸が浅いと焦りやイライラが生まれやすく、深くなるほど思考が整い、自然と微笑みや快活さがにじみ出てきます。
瞑想とは、「人生を上手に生きるための心の訓練」です。3分でも5分でも、「自分の内側に還る時間」を持つことで、自律神経・ホルモンバランス・感情が整い、人生の質(QOL)が底上げされていくのです。






