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ヨガは「自分の身体を感じ取る力」を高めるのか

ヨガは「自分の身体を感じ取る力」を高めるのか
記事作成日
2026年7月31日

皆さんは、自分の身体のことを、どれくらい知っているでしょうか。

肩が凝っている、呼吸が浅い、お腹が空いている、少し疲れている。僕たちは毎日、身体からたくさんの情報を受け取っています。けれど、その情報に気づいていることと、その情報をうまく扱えていることは、少し違います。

たとえば、心臓が速く動いていることに気づいたとしても、「これは危険なのではないか」と不安になれば、身体への注意は苦しさを増やすかもしれません。反対に、疲れていることに気づいても、「まだ頑張れる」と無視し続ければ、身体の声は生活に生かされません。

この論文が扱っている「身体への気づき」とは、単に身体の変化に敏感になることではありません。身体の感覚を落ち着いて観察し、必要以上に怖がったり、反対に無視したりせず、自分を理解するための情報として受け取ることです。

ヨガは、そうした身体との関係を育てる可能性があります。

この論文では、ヨガと身体への気づきを調べた33本の論文が整理されています。ヨガを行った人たちの介入前後を比較した研究では、72%が身体への気づきの改善を報告しました。対照群と比較した研究でも、76%がヨガに有利な結果を示しています。

これだけを見ると、ヨガにはかなり明確な効果があるように思えます。しかし、この論文の良いところは、そこで話を終わらせていないことです。

研究ごとに、行われているヨガの内容はかなり違いました。一回だけヨガを行う研究もあれば、数か月続ける研究もあります。アーサナを中心とするもの、呼吸や瞑想を重視するもの、ヨガ哲学を伝えるものもありました。そして、身体への気づきを測定する方法も統一されていませんでした。

興味深いのは、心拍を正確に数えられるか、関節の角度を正確に感じられるかという単純な能力だけを調べた研究よりも、身体感覚への注意、身体への信頼、感情と身体のつながりまで含めて測定した研究のほうが、ヨガによる変化を捉えやすかったことです。

僕は、ここにヨガの本質の一部があると思います。

ヨガは、身体を思い通りに動かすためだけの練習ではありません。身体を外側から管理し、理想的な形へ近づけることだけが目的でもありません。むしろ、自分の身体でいま何が起きているのかを知り、それに対して、どのような態度を取るのかを学ぶ練習です。

呼吸が浅ければ、それに気づきます。左右差があれば、無理に消そうとせず観察します。痛みがあれば、我慢するのでも、すぐに恐れるのでもなく、その感覚が何を伝えているのかを確かめます。

そうした小さな練習を繰り返すことで、僕たちは身体を「言うことを聞かせる対象」としてではなく、「ともに生活する自分の一部」として扱えるようになるのかもしれません。

ただし、この論文は、ヨガがすべての人の身体への気づきを必ず改善すると証明したものではありません。研究規模はまだ小さく、ヨガの内容も統一されておらず、他の運動や治療より優れているかについても十分には分かっていません。

それでも、ヨガが僕たちに与えてくれるものを、「柔軟性」や「筋力」だけではなく、「身体から届く情報を受け取る力」として捉え直すうえで、この論文はとても大切な一冊です。

身体に気づくこと。そして、その身体を信頼すること。

その二つの間にある静かな練習を、科学の言葉で確かめようとした、誠実で興味深い論文です。

 下記、研究の要約まとめです。

Changes in Body Awareness in Yoga Interventions: A Systematic Review

Garnsey CL, Gnall KE, Osherow EK, Park CL. Changes in body awareness in yoga interventions: A systematic review. Complement Ther Clin Pract. 2025 May;59:101977. doi: 10.1016/j.ctcp.2025.101977. Epub 2025 Mar 25. PMID: 40168756; PMCID: PMC12039757.

【タイトル】

ヨガ介入における身体への気づきの変化:系統的レビュー


【背景】

ヨガでは古くから、身体、呼吸、感情、意識を切り離されたものとしてではなく、相互に関係するものとして観察することが重視されてきました。アーサナを行う際にも、形を完成させることだけではなく、呼吸、筋緊張、重心、痛み、快・不快、感情の変化などに注意を向けます。

こうした実践から、ヨガは「身体への気づき」を高めると考えられてきました。しかし、ヨガによって本当に身体への気づきが改善するのかについては、個別の研究は存在していたものの、それらを体系的に整理したレビューは行われていませんでした。

身体への気づきの低下や偏りは、摂食障害、心的外傷後ストレス障害、慢性疼痛、筋骨格系疾患、神経疾患、消化器疾患などと関連すると報告されています。そのため、ヨガが身体への気づきを改善するならば、それがヨガによる症状改善の一つの作用機序になっている可能性があります。

本論文は、「ヨガを行うと身体への気づきは変化するのか」「その変化は、どのような測定方法を用いたときに確認されやすいのか」「身体への気づきの変化が、精神的・身体的な健康改善につながるのか」を明らかにすることを目的としています。



【身体への気づき〈Body Awareness〉について】

この論文で最も重要な概念が、body awarenessです。日本語では「身体への気づき」「身体感覚の認識」「身体認識」などと訳されますが、本論文における意味は、単に身体の変化を察知する能力だけではありません。

論文では、Mehlingらの多次元的なモデルを採用しています。このモデルでは、身体への気づきは四つの側面から構成されます。

一つ目は、身体内部や身体運動の微細な変化を知覚する能力です。呼吸の深さ、心拍、筋緊張、空腹感、疲労、痛み、身体の位置などを感じ取ることが含まれます。

二つ目は、身体感覚に対してどのような質の注意を向けるかです。身体を過剰に監視したり、反対に無視したりするのではなく、判断せずに安定して注意を向けられるかが問われます。

三つ目は、身体から届く感覚に対する態度です。身体の感覚を危険なもの、不快なもの、抑えるべきものとして扱うのか、それとも自分を理解するための信頼できる情報として扱うのかという違いです。

四つ目は、心身統合です。身体、感情、思考を別々のものとして捉えるのではなく、それらが関連しているという実感を持ち、「身体を持っている自分」ではなく「身体を含む自分」として経験できることを指します。

したがって、身体への気づきが高いとは、身体の感覚に敏感であればよいという意味ではありません。身体の感覚に注意を向け、それを過度に恐れたり判断したりせず、必要に応じて生活上の判断に利用できる状態を意味します。

これは非常に重要な区別です。身体の変化を細かく監視していても、そのたびに「病気ではないか」「悪化しているのではないか」と不安になるのであれば、それは適応的な身体への気づきとは限らないからです。



【内受容感覚〈Interoception〉について】

内受容感覚とは、身体内部から生じる信号を知覚し、それらと関係を持つ能力です。心拍、呼吸、空腹、満腹、体温、内臓感覚、疲労、痛み、緊張などが代表的です。

身体への気づきと内受容感覚はしばしば同じ意味で使われますが、厳密には内受容感覚のほうが狭い概念です。身体への気づきには、身体内部の感覚だけでなく、身体の位置、動き、感覚への態度、心身の統合感まで含まれます。

また、内受容感覚には複数の側面があります。実際に心拍をどの程度正確に捉えられるかという「内受容的正確性」と、自分は身体内部の感覚をよく理解できていると思うかという「主観的な内受容感覚」は、必ずしも一致しません。

本論文で採用された研究の一部では、参加者が脈を触らずに心拍数を数え、実際の心拍数と比較する心拍知覚課題が用いられていました。一方で、MAIAという質問紙では、身体感覚への注意、感覚への信頼、注意を調節する能力など、より広い内受容感覚が測定されていました。

この測定方法の違いが、研究結果のばらつきを生む大きな要因になっています。



【身体への気づき・内受容感覚・固有受容感覚・身体化・心身統合とヨガの関係について】

この論文で扱われている関連概念には、内受容感覚のほか、固有受容感覚、身体化、身体反応性、心身統合などがあります。

「固有受容感覚〈proprioception〉」とは、自分の身体や関節が空間のどこにあり、どの程度動いているかを感じる能力です。目を閉じた状態でも、膝や足首がどの角度にあるかが分かるのは固有受容感覚によるものです。アーサナでは、関節の位置、重心、左右差、筋緊張を継続的に調整するため、この能力に働きかける可能性があります。

「身体化〈embodiment〉」とは、身体を自分とは別の物体として扱うのではなく、身体を自己の一部として経験することです。身体のサインに気づき、それを尊重し、必要に応じて応答することも含まれます。

「身体反応性〈body responsiveness〉」とは、身体からの情報を価値あるものとして受け取り、行動の判断に利用する傾向です。疲労を感じたときに休む、呼吸が乱れたときに速度を落とす、痛みを感じたときに無理をしない、といった行動につながります。

「心身統合〈mind-body integration〉」とは、感情、思考、身体感覚を互いに関連する経験として理解することです。不安なときに呼吸が浅くなり、肩が緊張し、思考が狭くなるという一連の反応を、別々の問題ではなく一つの心身反応として認識することが該当します。

ヨガは、アーサナ、呼吸法、瞑想的注意を組み合わせるため、これらの要素に同時に働きかける可能性があります。呼吸と動きを結びつけ、身体感覚へ注意を向け、感覚を良い・悪いと即座に判断せずに観察するプロセスそのものが、多次元的な身体への気づきの訓練になり得ます。

一方、ボディイメージは外見や体形に対する評価を中心とするため、身体への気づきとは関連しますが同一ではありません。また、マインドフルネスも注意の質に関係しますが、必ずしも身体に限定された概念ではありません。



【方法】

研究者らは、PubMed、APA PsycINFO、Scopus、CINAHLの四つのデータベースを使用し、各データベースの収載開始時点から2024年9月22日までの研究を検索しました。

レビューはPROSPEROに事前登録され、PRISMA 2020のガイドラインに従って実施されました。

対象となったのは、アーサナなどの身体姿勢を含むヨガ介入を行い、介入前後に身体への気づきのいずれかの側面を定量的に測定した、英語の査読付き研究です。年齢、健康状態、ヨガの期間には制限が設けられていません。

一方、瞑想や呼吸法だけでアーサナを含まない研究、MBSRのように複数の介入要素が組み合わされ、ヨガ単独の影響を区別できない研究、介入前後の集計結果が報告されていない研究は除外されました。

検索では最初に1,906件が見つかり、重複688件を除いた1,218件の抄録が審査されました。その後、252本の全文が検討され、最終的に33本の論文が採用されました。このうち一部は同一研究の二次解析であるため、独立した研究サンプルとしては31研究です。

研究デザイン、参加者、ヨガ介入の内容、身体への気づきの測定方法、研究結果、バイアスのリスクが複数の研究者によって評価されました。ただし、研究デザイン、ヨガの内容、測定尺度があまりにも異なっていたため、統計的に結果を統合するメタ解析は行われていません。



【結果】

全体として、ヨガによって身体への気づきが改善する可能性を示す研究が多数を占めましたが、すべての研究で一貫した結果が得られたわけではありません。

ヨガ群の介入前後を比較した25研究のうち、18研究、割合にして72%で、少なくとも一つの測定時点において身体への気づきの有意な改善が認められました。

ヨガ群と対照群を比較した21研究では、76%の研究がヨガ群に有利な結果を報告しました。ただし、何も行わない待機群や通常治療群などの非活動的対照群との比較では83%がヨガに有利だったのに対し、運動、ストレッチ、瞑想、健康教育などを行う活動的対照群との比較では66%でした。したがって、ヨガが何もしない場合より優れている可能性は比較的明確ですが、他の有効な介入よりも特別に優れているかについては、まだ判断できません。

測定尺度によっても結果が異なりました。最も一貫して改善が確認されたのは、身体への気づきを多次元的に測定するMAIAでした。MAIAを使用した九つの研究のうち、七つでヨガ群の時間的な改善が報告されました。

これに対して、身体の変化をどれほど察知できると思うかを中心に測定するBAQでは、八研究中五研究で有意な結果が得られました。

一回のヨガクラス前後で心拍知覚の正確性を測定した四研究では、二研究で改善が見られましたが、残りの二研究では改善が確認されませんでした。膝、足首、頸部などの位置感覚を測定した固有受容感覚の研究についても、ヨガ群が改善した研究と、変化が見られなかった研究が混在していました。

身体への気づきの改善は、感情調節、スピリチュアリティ、肯定的感情、自己受容、生活満足度、身体への肯定的評価、腰痛による機能障害の減少などと関連していました。

媒介分析を行った研究では、身体への気づきの変化が、女子大学生のセルフ・コンパッションや身体評価、PTSD症状、ジェンダー暴力を経験した女性の不安や心理的苦痛の改善を媒介していました。一方、うつ症状や感情調節の改善については、身体への気づきが媒介していることを確認できない研究もありました。したがって、身体への気づきがヨガの作用機序である可能性はありますが、現時点では十分に証明されたとは言えません。

研究対象者は11人から228人で、約45%の研究は参加者50人未満でした。平均年齢は12.1歳から74.8歳までと幅広く、大学生、アスリート、消防士、慢性疼痛患者、PTSD患者、うつ病患者、摂食障害患者、パーキンソン病患者、糖尿病性神経障害患者などが含まれていました。

研究デザインでは21研究がランダム化比較試験でしたが、対照群を含む24研究のうち、無作為化、割り付けの秘匿、評価者の盲検化について高い基準を満たしたものは七研究、29%にとどまりました。また、多くの研究で女性の割合が高く、人種・民族構成の報告も不十分でした。



【考察】

このレビューからは、「ヨガは身体への気づきを改善しない」と考えるよりも、「ヨガは身体への気づきを改善する可能性があるが、その効果は測定する側面によって異なる」と解釈するのが適切です。

特に重要なのは、多次元的な尺度ほどヨガの変化を捉えやすかったことです。

ヨガが育てるものは、心拍を正確に数える能力や、関節角度を正確に再現する能力だけではない可能性があります。ヨガによって変化するのは、身体の感覚に気づくこと、その感覚に判断せず注意を向けること、身体からの情報を信頼すること、そして身体、感情、思考のつながりを理解することを含む、総合的な身体との関係性なのかもしれません。

私がこの論文で最も重要だと思うのは、「身体への気づきの量」と「身体への向き合い方の質」を区別している点です。

身体感覚に敏感になるだけでは、必ずしも健康にはつながりません。痛み、心拍、胃腸の感覚を過剰に監視し、それを危険だと解釈すれば、不安や身体症状への固執が強くなることがあります。ヨガに求められるのは、身体を細かく監視する能力ではなく、身体から届く情報に落ち着いて注意を向け、必要な情報として受け取り、適切に応答する能力だと考えられます。

一方で、研究には限界があります。参加者数の少ない研究が多く、ヨガの流派、頻度、時間、指導方法、呼吸法、瞑想、哲学的説明の有無などが大きく異なっていました。同じ「ヨガ」という名称でも、実際に行われていた内容はかなり違います。

論文では、ヨガ介入の内容を客観的に記述するEPYQという尺度を用い、姿勢、呼吸法、精神的・感情的気づきなど、どの要素に重点を置いたヨガなのかを報告する必要があると提案しています。

また、人種・民族的少数者、男性、LGBTQ+の参加者が少なく、研究結果を幅広い人々へ一般化できるかは分かりません。著者らは、西洋でヨガが身体運動として切り取られ、インドの精神的・文化的背景から切り離されてきた問題にも触れています。

科学的測定はヨガを理解する重要な方法ですが、唯一の方法ではありません。古代のヨガ哲学が伝えてきた心身統合の知見を、科学的に証明されていないという理由だけで軽視すべきではないという姿勢も示されています。

臨床的には、ヨガを「身体への気づきを改善する治療」として単独で推奨するには、まだ証拠が不足しています。特に摂食障害、神経疾患、慢性疼痛、PTSDなどの特定疾患については、より大規模で厳密なランダム化比較試験が必要です。



【結論】

ヨガ介入は、身体への気づきを改善する可能性があります。特に、身体感覚の知覚だけでなく、注意の質、身体への信頼、感覚への態度、心身統合を含む多次元的な概念として測定した場合に、改善が確認されやすい傾向がありました。

ただし、研究結果は完全には一致しておらず、研究規模の小ささ、ヨガ介入内容の不統一、測定尺度の違い、活動的対照群の不足などの問題があります。

現段階では、「ヨガは身体への気づきを確実に改善する」と断定するよりも、「ヨガは身体との適応的な関係性を育てる有望な方法であり、その可能性を支持する研究が増えている」と結論づけるのが妥当です。

引用文献は下記よりご覧下さい.

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