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精神科領域のヨガ療法研究が「ちゃんと効いた」と言い切りにくい理由

記事作成日
2026年2月23日
ヨガの研究って、「効く・効かない」の前に、そもそも“比べ方”が難しいんですね。薬なら、同じ成分を同じ量だけ出せます。けれどヨガは、姿勢も呼吸も注意の向け方も、そして教える人の関わり方も、全部が少しずつ作用してしまいます。つまりヨガは、単一の手技というより「状態づくりの総合技術」に近いわけです。だから研究でそれを扱うとき、思った以上に“ズレ”が生まれます。
この論文が面白いのは、そのズレがどこから生まれるのかを、感覚ではなく研究者の言葉で丁寧にほどいているところです。たとえば二重盲検。ヨガをやっている人は、今やっているのがヨガだと分かってしまいます。分かってしまうと、「良くなりそう」という期待が入りやすい。期待は悪者ではないですが、研究としては結果を歪めます。無作為化も同じで、太陽礼拝ができる身体と、膝に痛みがある身体とでは、割り付けの公平性が簡単に崩れます。精神科領域だと、そもそもやる気が出ない状態(それ自体が症状)が、介入の前提を壊してしまう。これが(*)キャッチ22なんですね。
さらに厄介なのは、ヨガが「海みたいに広い」という事実です。同じ“ヨガ”でも、やっている内容が違いすぎる。呼吸中心なのか、動き中心なのか、注意の質を重視するのか。流派やプロトコルの違いを無視して、全部まとめて「ヨガは効きます」と言ってしまうと、それはさすがに乱暴になります。逆に言うと、研究結果が割れて見えるときほど、「どんなヨガで、どんな量で、誰が、どんな文脈で教えたのか」を見る目が育ちます。
ヨガを“信じたい人”より、ヨガを“ちゃんと使いたい人”に対して、この論文をお勧めしたいです。臨床で、あるいは現場の指導で、相手の生活や神経の状態に合わせてヨガを処方したい人ですね。読み終えると、派手な結論は残りませんが、その代わりに、「研究を読むとき、ここを見れば判断が雑にならない」という視点が残ると思いますよ。ヨガを医療やケアの言葉で語るなら、まずはこの地図を持っておくと、かなり心強いはずです。
*: 「まさにその問題が、介入の妨げになる(catch-22)」
下記、研究の要約まとめです。
Methodological issues in yoga therapy research among psychiatric patients
Karri, Rama Reddy; Bhavanani, Ananda B.; Ramanathan, Meena; Mopidevi, Vijaya Gopal1. Methodological issues in yoga therapy research among psychiatric patients. Indian Journal of Psychiatry 65(1):p 12-17, January 2023. | DOI: 10.4103/indianjpsychiatry.indianjpsychiatry_464_22
【タイトル】
精神科患者におけるヨガ療法研究の方法論的課題
【背景】
ヨガ療法は近年、エビデンスに基づく医療の文脈でも受け入れられつつあり、精神科領域でも補助療法(アドオン)としての有用性が議論されています。一方で、論文数が増えているにもかかわらず、研究の設計や実施の難しさが多く、結論の信頼性を揺らす「方法論的なつまずき」が繰り返し生じている、という問題意識が本論文の出発点です。著者らは、逸話や権威的な引用ではなく、現代科学の枠組みで通用する「証拠としてのデータ」によって、ヨガと医療が共生する必要があると述べています。
【ブラインディング(盲検化、特に二重盲検)について】
薬剤試験では、薬とプラセボを見分けられないようにして、患者も評価者も割り付けを知らない状態(二重盲検)を作りやすいです。しかしヨガ介入では、参加者が「今やっているのがヨガかどうか」を体感的に把握しやすく、評価場面でもそれが漏れやすいため、期待バイアスが入りやすいと論じられています。つまり、ヨガ研究では「盲検化しにくい」という構造的な弱点を抱えやすい、という整理です。
【ランダム化(無作為化)について】
薬剤試験では、条件を満たした参加者をランダムに群へ割り付けることが比較的成立しやすい一方、ヨガ介入では身体能力の差(膝OAで太陽礼拝が難しい等)や宗教的抵抗(オーム詠唱への抵抗など)が群割り付けの障壁になり得ると述べられています。著者らは曜日で群を分けるなど、現場の実務に合わせた「準ランダム化」に触れつつ、厳密な乱数割り付けをそのまま適用することが難しい現実を示しています。
【ブラインディングとランダム化、ヨガの関係について】
本論文が扱うキーワード群は、ヨガが「単一の手技」ではなく「生活様式の修正」に近い介入である点から連鎖的に生まれています。具体的には:
・スタンドアロンかアドオンか
・二重盲検の困難、無作為化の難しさ
・従属変数(アウトカム定義)の不統一
・介入以外の影響(生活・食事・ストレス出来事などの介入変数)への配慮不足
・介入量(強度・頻度・期間)のばらつき
・効果持続性の評価不足、対照群設計(待機群や通常治療の限界、解体研究の重要性)
・脱落バイアス
・遵守と実施の正確性
・部分実施を拾えない「オール・オア・ナン」評価
・流派の多様性
・介入の異質性と多次元性
・プロトコルの組み合わせ問題
・ヤマ・ニヤマなど“必須要素”の欠落
・マインドフルネス(注意の質)の測定困難
・精神科患者特有のアモチベーションが介入の前提を崩すcatch-22
・指導者資格の不均一
・文化的要因
・ナイーブ参加者確保の難しさ
・多施設研究のばらつき
・主要治療(薬物等)の途中変更
・学際研究の現場制約
・統計的ミス
・主観的変化を捉える質的研究の不足
・生物医学指標の可能性と限界
以上が一連の論点として語られます。これらはすべて、「ヨガの本質(多層・多成分・主体参加・文化文脈)」が、そのまま研究上の難しさとして現れる関係にあります。
【方法】
本論文は、精神科領域のヨガ療法研究に特に焦点を当て、既存研究で生じてきた方法論上の問題点を整理し、今後起こり得る課題も見越して論点化する「ナラティブ・レビュー(叙述的総説)」です。特定の一研究を再解析するのではなく、研究デザイン上の典型的な落とし穴を章立てで検討しています。
【結果】
結果として提示されるのは数値の効果量ではなく、「何が研究の信頼性を損ねるか」のチェックリスト的な全体像です。とりわけ、盲検化・無作為化・対照群設計・介入量の標準化・遵守と実施精度・脱落の扱い・多様な流派と多成分介入の扱い・精神科患者の動機づけ問題などが、ヨガ療法研究の解釈を難しくしている主要因として反復的に強調されています。
【考察】
著者らは、ヨガ療法が現代医学の「エビデンスの厳密さ」に適合しにくい固有の難点を持つこと、そして精神科領域では主体的参加や注意の質が求められる分、追加の困難が上乗せされることを論じています。そのうえで、研究と臨床の橋渡しを進めるには、研究実施・報告のガイドライン整備と標準化が不可欠であり、すでにデルファイ法に基づく報告ガイドライン作成の動きがある点にも触れています。
【結論】
ヨガ療法研究は、盲検化や無作為化などの基本要件をそのまま移植しにくく、介入の多成分性・文化性・主体参加性が方法論上のハードルになります。したがって、誤解や不適切な実践を減らしつつ、研究の均質性と再現性を高めるためのガイドライン洗練と標準化が必要だ、という結論です。
引用文献は下記よりご覧下さい.
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