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慢性的な痛みには、「身体の感覚に気づく練習」が役立つのか?

慢性的な痛みには、「身体の感覚に気づく練習」が役立つのか?
記事作成日
2026年4月16日

この論文、僕はかなり面白いと思いました。というのも、慢性的な痛みを抱えている方に対して、「痛みを消すこと」だけを目的にしていないからなんですね。もちろん痛みの強さや痛みに邪魔される度合いも見ているのですが、それと同じくらい大事にしているのが、「自分の身体の内側をどれだけ感じられるか」とか、「感情の波をどう整えていけるか」といった部分なんです。

慢性痛というのは、どうしても“痛い場所”に意識が集中しやすいものです。でも実際には、痛みが長引く人ほど、睡眠が乱れたり、疲れやすくなったり、不安が強くなったり、仕事や人間関係に影響が出たりしますよね。つまり、痛みだけが単独で存在しているわけではなくて、その人の神経の緊張、感情の扱い方、身体感覚との付き合い方まで含めて、一つの状態になっていることが少なくないわけです。この論文は、その全体像をかなり丁寧に扱っています。

特に興味深いのは、MABTという方法が、ただ「気づきましょう」と言うだけではないところです。身体の感覚を見つける段階があって、その感覚にアクセスする練習があって、さらにそこから、その感覚を保ちながら自分の状態を読み取っていく。かなり段階的なんですね。ここが、ヨガやコンディショニングの現場感覚にも近いと思いました。いきなり深い気づきは起こらなくて、まずは感じ取れるようになること、その感じ取ったものに留まれること、そしてそこに意味を見出せること。この順番が大切なんだと思います。

そして結果として、身体機能や疲労、睡眠、社会的役割、痛み干渉などが改善し、内受容感覚や感情調整の指標にも大きな変化が出ていたのは、かなり示唆的です。僕はここに、この研究のいちばんの価値があると感じました。つまり、慢性痛へのケアは、局所的な対症療法だけではなくて、「自分の身体をどう捉え直せるか」の支援でもある、ということですね。

もちろん、この研究はまだパイロットですし、対照群もありません。なので、これだけで断定はできません。ですが、それでもなお、現場で実際に回してみて、ここまで一貫した改善が出ているのは十分に価値があります。特に、ヨガや身体志向のセラピーを「なんとなく良さそう」ではなく、「内受容感覚」「感情調整」「自己調整」という言葉で捉え直したい人には、とても良い論文だと思います。身体を感じることは、単なるリラクゼーションではなくて、人生のなかで自分を調律し直すための技術のようですよ。

 下記、研究の要約まとめです。

Patient Outcomes Improve in a Pragmatic Implementation Pilot Study of Mindful Awareness in Body-Oriented Therapy (MABT) for Chronic Pain

Price CJ, Colgan DD, Abu-Rish Blakeney E, Pennings JS, Davidson C, Hansen KA. Patient Outcomes Improve in a Pragmatic Implementation Pilot Study of Mindful Awareness in Body-Oriented Therapy (MABT) for Chronic Pain. Glob Adv Integr Med Health. 2025 Mar 24;14:27536130251331029. doi: 10.1177/27536130251331029. PMID: 40144490; PMCID: PMC11938458.

【タイトル】
慢性痛に対する身体志向療法におけるマインドフル・アウェアネス(MABT)の実践的実装パイロット研究において、患者アウトカムは改善した


【背景】
この論文の背景には、慢性疼痛の捉え方が、単なる侵害受容の問題から、生物・心理・社会モデルへと大きく移ってきた流れがあります。つまり、慢性痛は身体だけの問題ではなく、感情、思考、生活背景、人間関係まで含んだ現象として理解すべきだ、という考え方です。論文ではさらに、痛みが長引く過程では、急性痛の回路だけでなく、感情に関わる神経回路の関与が強くなることが指摘されており、そのため感覚や感情の自己調整を助ける非薬物療法が重要になっていると述べています。

そのなかで注目されているのが、interoception(内受容感覚、内受容意識)です。慢性疼痛の人では、この内受容感覚の機能低下が、痛みの強さや頻度の増加、中枢性感作関連症状、痛み抑制機構の低下などと関係している可能性があり、ここを育て直すことが治療上の鍵になりうると、この研究は位置づけています。


【内受容感覚(Interoception / Interoceptive Awareness)について】
身体の内側で起きている感覚に気づき、それを評価し、それに応じて反応するプロセスのことです。この論文では、単に「身体感覚があるかどうか」ではなく、身体の感覚に注意を向け、その意味を読み取り、感情や行動の調整につなげる力として扱われています。

ここが重要なのは、慢性疼痛では「痛みを感じすぎる」のではなく、むしろ身体内部の情報処理が偏ったり粗くなったりしている可能性があるからです。論文でも、内受容感覚の低さは、痛みの重さや頻度の増加と関係すると紹介されています。つまり、身体を繊細に感じることは、痛みを強めることではなく、むしろ痛みと付き合う精度を高めることにつながる可能性がある、という立場です。


【感情調整(Emotion Regulation)について】
著者らは、慢性痛の慢性化には感情回路の関与が深く、痛みは純粋に身体だけの出来事ではなく、不安、警戒、回避、自己評価、ストレス反応と絡みながら維持されると考えています。

そのため、身体感覚への気づきを高めることは、単に痛みの強度を下げるためだけでなく、感情が立ち上がる前後の身体変化を捉え、自分の状態を早めに調整するためにも意味があります。実際、この研究では感情調整困難さを測る指標も改善しており、MABTは「身体を通じた情動調整の訓練」として読むのが自然です。


【この論文とヨガの関係について(平岡視点です)】
内受容感覚という概念は、ヨガでいうところの呼吸・脈・緊張・重さ・広がり・落ち着き・違和感などを丁寧に観る営みとかなり重なります。アーサナでも呼吸法でも、上手な実践者ほど「形を作る」より先に「今の身体が何を言っているか」を拾っていますが、これはまさに内受容感覚の洗練です。

次に感情調整との関係です。ヨガは感情を直接操作するというより、姿勢・呼吸・接地感・注意の置き方を通じて感情の土台を整えていきます。この論文でMABTが目指しているのも、身体感覚への注意を入口にして、感情の自己調整力を上げることでした。これはヨガセラピーの臨床感覚と非常に近いです。

さらに、この介入は個別セッションで、段階的に「感覚を見つける」「感覚にアクセスする」「感覚を保ちながら意味づけする」という順序で進みます。ここは、studio Sahanaが大切にしている静けさのなかで感覚の解像度を上げる個別実践にかなり近いと感じます。ヨガを“運動”ではなく、“自己調整の技法”として捉える人には、とても相性のよい研究です。


【方法】
研究デザインは、一群反復測定デザインです。慢性疼痛クリニックで新たに統合されたサービスとしてMABTを提供し、その実装可能性と患者アウトカムの変化をみています。つまり、ランダム化比較試験ではなく、まず「現実の臨床で回るのか」「患者にとって意味がある変化が出るのか」を確かめる、実践寄りのパイロット研究です。

介入は、MABTの訓練を受けたクリニック所属のマッサージセラピストによる1対1の75分セッションを週1回、計8回行うもので、全体はおよそ8〜10週間で進みます。内容は、①身体感覚を見つける、②内受容感覚へのアクセス法を学ぶ、③その感覚を保ちながらマインドフルに評価・調整する、という3段階構成です。触覚的なガイドやセルフタッチも用いられています。

評価は、介入前、3か月後、6か月後に行われました。主要アウトカムはPROMIS-29で、身体機能、疲労、不安、抑うつ、睡眠障害、社会的役割、痛み干渉などを見ています。副次アウトカムとして、MAIA-2による内受容感覚、DERS-SFによる感情調整困難、レジリエンス、フローリッシングも測定しています。


【結果】
70名が紹介され、そのうち41名が少なくとも1回MABTを受けました。さらに30名、つまり受け始めた人の73%が介入を完遂しています。保険適用外で自己負担がある環境だったことを考えると、これは臨床実装の観点ではかなり悪くない完遂率です。図1でも、紹介から辞退、初回前キャンセル、受講開始、完遂までの流れが整理されています。

主要アウトカムでは、身体機能、疲労、睡眠障害、社会的役割、痛み干渉、痛み強度に有意な改善がみられました。加えて、臨床的に意味のある変化量の基準を満たしたのは、身体機能、不安、疲労、睡眠障害、社会的役割、痛み干渉でした。特に社会的役割と痛み干渉の改善は大きく、日常生活への波及が示唆されます。

副次アウトカムでは、内受容感覚の総合指標(MAIA)と感情調整困難(DERS-SF)に大きな改善が見られました。しかもこれらの変化は、3か月時点だけでなく6か月時点でも維持されていました。一方で、レジリエンスとフローリッシングは改善傾向こそあったものの、有意差には至りませんでした。


【考察】
著者らは、この結果をもって「MABTは慢性疼痛クリニックの現場で実装可能であり、患者にとって有望な非薬物療法である」と考えています。ただし、論文の価値は単に“痛みが下がった”ことだけではありません。むしろ重要なのは、内受容感覚と感情調整が改善し、それが痛み干渉や身体機能、社会参加の改善と結びついていた点です。ここから、慢性痛への介入では、身体感覚を感じる精度を育てること自体が中核メカニズムになりうると示唆されています。

また、効果が6か月後まで比較的保たれていた点については、セッション中に学んだ内受容的セルフプラクティスが継続された可能性があると論文は述べています。つまり、治療者に依存するだけでなく、自分で自分の状態を読み取り、整える技術が育った可能性があるわけです。これはヨガやセルフケアの文脈では、とても重要な視点です。

一方で限界も明確です。対照群がない一群研究であること、サンプルが少なく白人女性に偏っていること、介入を完遂した人ほど追跡調査に答えた可能性があり選択バイアスがあること、生理学的指標ではなく自己記入式尺度が中心であることなどです。そのため、「有効性が完全に証明された」とまでは言えず、より大規模なRCTが必要です。


【結論】
この論文の結論は、MABTは慢性疼痛に対する有望な非薬物療法であり、現実のクリニックでも導入しうるというものです。特に、痛みそのものだけでなく、疲労、睡眠、社会参加、内受容感覚、感情調整といった広い領域に変化が見られたことから、慢性疼痛を「局所の問題」ではなく「全身的・心理社会的な自己調整の問題」として扱う重要性が浮かび上がります。

引用文献は下記よりご覧下さい.

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