
Study
ヨガが健康に与える影響を生物学的な指標から探る

記事作成日
2024年5月8日
最近も引き続き、健康維持や病気予防のために、ヨガを生活に取り入れる人が増えています。
実際、ヨガは古代インドから伝わる、心と体を整える方法ですが、科学的に見てもさまざまな健康効果があることが分かっています。この研究では、多くの病気の原因となる「酸化ストレス」という細胞のダメージを防ぐために、ヨガがどのような効果を発揮しているのか、生物学的な指標(バイオマーカー)を使って検証しています。
酸化ストレスは、体内に発生する活性酸素が増えすぎて、細胞やDNAを傷つけてしまう状態です。これが進むと、老化が早まり、心臓病や糖尿病、がん、アルツハイマー病といった病気の原因となります。そこでヨガを行うと、こうした酸化ストレスを抑える抗酸化物質が体内で増加することが、多くの研究から示されています。
例えば、ヨガを3ヶ月続けた人では、抗酸化作用のあるグルタチオンやビタミンC、ビタミンEなどが増加しました。また、血中の酸化ダメージを示すマーカーが減少し、細胞レベルでの健康が向上していることが確認されました。
さらに、ヨガは心臓の健康にも役立ちます。心拍数や血圧を下げ、炎症を示す物質の濃度を下げることで、心臓病のリスクを低下させる効果があります。特に心不全の患者にヨガを取り入れた場合、心臓機能が改善し、自律神経のバランスが整ったことも報告されています。
また、ヨガは細胞の老化を防ぐ働きもあるようです。最近の研究では、ヨガによってテロメラーゼという酵素が活性化し、染色体の末端(テロメア)を長く保つことで、細胞の老化を遅らせる可能性が示唆されました。
このように、ヨガは単にリラックスするだけでなく、体の内側から病気を防ぎ、健康を守る力を持っています。ただ、現段階の研究には、対象者が少ない、期間が短い、また比較グループが不足しているなどの課題もあります。そのため、今後さらなる研究が期待されています。
ヨガが持つ可能性を科学的に明らかにすることで、これからますますヨガが健康維持の方法として広まっていくかもしれません。気軽に始められるヨガを日々の生活に取り入れることは、病気を防ぎ、健やかな人生を送るための大きな助けとなりそうですね。
下記、研究の要約まとめです。
Biological markers for the effects of yoga as a complementary and alternative medicine
Ashu Mohammad , Priyanka Thakur , Rakesh Kumar , Sharanpreet Kaur , Reena V. Saini and Adesh K. Saini
From the journal Journal of Complementary and Integrative Medicine
https://doi.org/10.1515/jcim-2018-0094
「補完代替医療としてのヨガの効果を示す生物学的指標」
【背景】
近年、早期老化や心臓血管疾患、多発性硬化症、線維筋痛症、アルツハイマー病などの疾患が増加しています。こうした生活習慣病に対して、薬物治療以外の方法として「ヨガ」が注目されています。ヨガは身体的・精神的な健康を向上させるため、医学的にその効果が研究されてきました。
【※補完代替医療とは?】
「補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine: CAM)」とは、現在広く普及している西洋医学(病院やクリニックで行われる医療)以外の医療体系や治療法のことを指します。西洋医学が「病気そのものを直接的に治療する」ことを目的とするのに対して、補完代替医療は「体全体のバランスを整え、人間が本来持っている自然治癒力を高める」ことに重点を置いているのが特徴です。
補完代替医療は大きく「補完医療」と「代替医療」の2つに分けられます。
「補完医療(Complementary Medicine)」とは、西洋医学の治療に追加して用いられる治療法で、薬や手術の効果を高めたり、副作用や症状を軽減したりすることを目的としています。例えば、がん治療中に行うマッサージや瞑想、ヨガ、鍼灸、アロマテラピー、音楽療法などがあります。
これに対して「代替医療(Alternative Medicine)」は、西洋医学の代わりに単独で用いられることがあります。具体例として、ホメオパシーやアーユルヴェーダ、漢方医学などがあります。
近年では、西洋医学だけでは解決しづらい慢性的な病気やストレス関連疾患が増加しており、多くの人が補完代替医療を取り入れるようになっています。特にヨガは身体と精神の両面から健康にアプローチし、ストレス軽減や心身の調和を促すことが数多くの研究から実証されています。そのため、ヨガは世界的に「補完代替医療」の代表的存在として注目されるようになりました。
現在では、西洋医学と補完代替医療を効果的に組み合わせることで、それぞれの弱点を補い合い、より高い治療効果を目指す「統合医療(Integrative Medicine)」という新しい医療の考え方も広がっています。これにより、単に病気を治すだけではなく、「その人が持つ本来の健康を取り戻すこと」に重点が置かれるようになり、医療の選択肢も多様化しています。
このように補完代替医療は、私たちが健康を維持し、病気と向き合う際の重要な選択肢の一つとして認識されるようになっています。
【ヨガとは?】
ヨガはインドで約2000年前に始まった身体と心の統合を目的とする心身療法です。具体的には、身体的なポーズ(アーサナ)、呼吸法(プラーナヤーマ)、瞑想やリラクゼーションを含み、精神的・肉体的健康を促進します。
【方法】
この論文は過去に行われた研究を収集・検証したレビュー論文です。ヨガの健康効果を示す生物学的な指標(バイオマーカー)を分析し、その効果を客観的に評価しています。
【サンプル】
様々な研究が取り上げられており、健康な人、心臓病患者、腎臓病患者、糖尿病予備軍などが対象になっています。研究期間はおおよそ3ヶ月から4ヶ月間、ヨガの実践頻度は週数回から毎日行われました。
【結果】
多くの研究で、ヨガの実践が酸化ストレスを軽減し、抗酸化物質(ビタミンC、E、グルタチオンなど)を増やすことが示されました。また、心拍数や血圧の低下、ストレスホルモン(コルチゾール)の減少、炎症マーカーの低下が報告され、心臓や免疫の健康を改善することが確認されています。
【考察】
ヨガが体に良い影響を与える理由として、抗酸化力の増強による酸化ストレスの低下、心肺機能や自律神経の調整、抗炎症作用、さらには加齢に伴うDNAの損傷を修復する酵素(テロメラーゼ)の活性化が考えられます。ただ、研究にはコントロール群が不足しているなどの限界もあり、今後のさらなる研究が必要です。
【結論】
ヨガは生活習慣病や老化を防ぎ、健康状態を改善する可能性が高いと考えられます。生物学的指標を用いてその効果を評価することで、より効果的なヨガの実践方法が分かるかもしれません。しかし、より正確な結果を得るためには、今後さらに厳密な研究が必要です。
引用文献は下記よりご覧下さい.
もし、掲載内容と論文に誤りがございましたらご連絡いただけると幸いです。