Column
聖典から考える「ストレスマネジメントとしてのヨガ」

執筆:2016年12月(執筆者:平岡充乃介)

 

ストレスとは

 

 内分泌学者のセリエ(Hans Selye)はストレスを“従来の系統発生学(*2)に基づく非特異性の反応パターン;体を「flight(逃げる)」または「fight(戦う)」かに備える重要な機能である”と定義しています。刺激(ストレッサ―)に対する反応の総称をストレスとしているのです。「ストレス=悪いもの」というわけではないんですね。

 

 私たちは普通に生活しているだけで常に刺激に囲まれています。例えば家の中で食事をすることや少し外へ出掛けることでさえ刺激と呼べます。セリエ氏は私たちの心身に良い影響を与えるものEustress/ユーストレス(例:食事・お風呂・物事の成功etc.)、悪い影響を与える物をDistress/ディストレス(例:不眠・空腹・物事の失敗etc.)と二つに分けて考えています。人によっては食事することが苦痛であったり、空腹であることが心地よかったりしますので、当然一人ひとりで刺激に対しての捉え方、感じ方が異なります。

 

 つまりストレスに関しては「感じ方」や「考え方」が重要になります。ポジティブ思考の人はストレス刺激を「成長の機会」に変換することができますし、ネガティブ思考だと「不快感・苦痛」に変換してしまうことになるのです。
生理学でストレス反応を紐解くと、まずは「①ストレスを感じる」ことにより「②視床下部からCRFという刺激ホルモンが分泌」されます。そしてそれを受け取った「③脳下垂体がACTHという刺激ホルモンを分泌」し、さらにそれを受け取った「④副腎髄質がアドレナリンを放出」します。最終的に「⑤心機能促進や血糖上昇」が私たちの体で起きるのです。

 

 そもそも刺激(ストレッサ―)に対して反応する(ストレスになる)かの判断は頭の中から始まっているのです。相手の行動をあまり待てない短気な方、負けず嫌いが強い方等は、他の人よりも多くのストレスを感じてしまうかもしれません。

 

(*2)生物の進化における仕組み

 

ヨーガ聖典で考えられるストレスとは

 パタンジャリ大師(*3)はラージャ・ヨーガの教典/実践指導書である『ヨーガ・スートラ』で以下のように述べております。

ヨーガに頼るということはクレシャ(悲哀、悩み、苦痛etc.)を間引くことであり、ストレスが少なく優れた受容能力がある高い次元の意識へ到達するということである。―Patanjali Yoga Sutra 第2章, 第2節

 

 ストレスの要因は突然もしくは不意に排除されるようなものでないと考え、「間引く」という言葉を使われました。その要因を間引くことができるのがヨガであり、我々の意識をも高めてくれるものだとおっしゃっています。ストレスはゆっくり整然と減らしていくべきであり、体系的なヨガはその方法として相応しいとしています。

 

 そして、この間引くべきクレシャに関して、聖典バガヴァッド・ギーターのSloka/詩を用いて以下のように説明できます。

繰り返し物事を考えることはいずれ愛着になり、愛着は欲望/執念に、欲望/執念(強い好き嫌い)は怒り(貪欲・情欲・嫉妬etc.)となり、さらにそれは心酔や注意不足、えこひいきとなり、最終的にはそれを見失ってしまう。―Bhagavad Gita 第2章, 第62節・第63節

 

 好きなことでも嫌いなことでも繰り返し考えることによって愛着が生まれます。好きな人の一挙手一投足に過敏になったことや、悩んでいる時に普段しないような失敗ばかりした経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。感情の不安定さはストレス(Distress)の要因になりやすいのです。

 

 また、自己中心的な性格は「執着」「野望」「好き嫌い」の感情によって形成されるとしており、先に述べたようにそのような性格だとストレスを悪いものとして捉えがちになってしまいます。たくさんの人が生活する中で自己中心的な考えを貫き通すことは難しいですよね。

 このヨーガ・スートラは「ヨーガとは心素の働きを止滅すること(心の働きを制御すること)」というSloka/詩から始まっており(*4)、ヨガ実習は心の働きを制御するための体系的な実践科学として説明されています。己の身体動作に集中すること(アーサナ/座位)、己の呼吸の流れに集中すること(プラーナヤーマ/呼吸法)、己の心の内に集中すること(ディアーナ/禅那)等により自分の意識をコントロールする技法を学ぶことができるのがヨーガなのです。

 

 もやもやした時にランニングをすればスッキリするように、体を動かすことは頭の中で余計なことを考える隙がなく、今の自分(の動作)に集中できる一つの手段なのです。世界的にストレス社会といわれる現代において、ヨーガの中でも「アーサナ/ポーズ」が注目されやすいのも納得できるのではないでしょうか。

 

(*3)ヨーガ・スートラの編纂者であり、文法学者ともされている.
(*4)Patanjali Yoga Sutra 第1章, 第2節. 第1節は「これよりヨーガの解説をする」である.

 

療法としてのヨーガの活用

 Dr.ナガラートナとDr.ナゲンドラを中心として、南インドのバンガロールにあるヨーガ療法施設Prashanti Kutiramにて、ヨガの療法的効果を実証するための様々な研究・調査が行われおり、多くの論文が発表されています。また、インド国内に留まらず、海外からも多くの方々が“ヨガを実習することで心身を癒したい”とこの施設を訪れています。

 

 そのような施設で研究をされているお二人は、生活習慣病と精神的疾患が増えた現代の状況を次のように述べられています。

 

 従来の西洋医学の治療法は、肉体とその機能に焦点を当てて行われてきた。身体の生理的な異常というよりも、むしろ生活習慣や生活態度に病気の原因をもつ疾病に対しては、従来の西洋医学では対処しにくい。現代の異常なほどのスピードで変化する社会生活の中では、多くの人びとは絶え間なくストレスにさらされている。そして、これらのストレス問題に対して一般の人びとが採用しているのは、飲酒・喫煙・過食(嘔吐)・薬物・各種依存などの有害的なストレスマネジメントであり、ついには肉体の病気をはじめ、心の働きまでも破壊する形となって現れてくる。(R.ナガラートナ・H.R.ナゲンドラ・ロビン.モンロー/橋本光 訳『あなたにもできるヨーガ・セラピー』産調出版 2000年 9頁)

 事故や遺伝的なものが原因で発症する病気を「Anadhija(アナディジャ)」、それ以外はストレスと誤ったその対処法が原因とする「Adhija(アディジャ)」と呼び、ヨガにおいて「ストレスとはスピードである」としています。呼吸法や瞑想法はもちろん、呼吸に合わせてゆっくりと行われるヨガの動作(アーサナ/ポーズ)もまた、私たちの体から緊張を取り除いてく

れるだけでなく心の中の焦りや高ぶりをスローダウンさせてくれ、「速いスピードの中でも惑わされない心=常時の落ち着き」へと導いてくれます。ヨーガ実習は、ストレスから生じる諸問題への対処法にも予防法にもなるのです。

 

仕事と健康

 日本においてヨガというものが広く知れ渡るようになり、定着してきたこの状況はとても喜ばしいものといえます。ヨガという言葉の定着の次の段階としては、ヨガを行うことによる効果の認識であると思います。そこで、「ストレス」と「心の病」とが大衆化している現代で、大量消費による社会問題と、それから生じる諸問題への対処法(ストレス・マネージメント)としてヨーガを提示しました。

 

 ヨガは宗教的であるだとか、女性的であるからと、男性(とりわけビジネスマン)の方々から敬遠されがちではないでしょうか。もちろん、物事に対する捉え方は人によって様々であるため、色んな考えがあります。しかし、もともとヨーガというものは男性が行うものであり、女性がそれを行うことは社会的に快く認められていませんでした(今ではインド人女性の先生も大勢いらっしゃいます)。男性がヨガをすることはとても自然なことですよ。

 

 ヨガ(特にヨーガ療法)が心身の癒し・治療において効果的であるということは、インドの研究機関/大学院で実証されている上に、日本では日本ヨーガ療法学会(リンク:www.yogatherapy.jp)の研究発表においても多くの症例が実証されています。

 少しでも時間があれば始められるのがヨガです。今では多くのヨガ教室が開講されていますし、また、本を読むことやインターネットで動画を見ること等、さまざまな機会が身の回りにあると思います。今までヨガに関心があまりなかった方が、この記事を機会に興味を持つきっかけになれば幸いです。

参考

1. R.ナガラートナ・H.R.ナゲンドラ・ロビン.モンロー/橋本光 訳(2000), あなたにもできるヨーガ・セラピー, 産調出版
2. Anne Waugh and Allison Grant (12th-2014), Ross and Wilson Anatomy & Physiology in Health and Illness, Churchill Livingstone (Elsevier), London
3. H.R. Nagendra and R. Nagarathna (1986), New Perspectives in Stress Management, Swami Vivekananda Yoga Prakashana, Bangalore, India
4. Patanjali Yoga Sutra
5. Bhagavad Gita

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